夏が終る日

 214.

「だから、ミツキが急に眠くなっちゃった理由も、俺、知ってるよ」

「……」

黙っていると、陽はまた、困った様に笑って、肩をすくめた。そして、話を続ける。

「ミツキ、向こうの世界にある自分の状態が今、どうなっているのか、知ってるか? ……今のミツキは、かなり危ない状態なのかもしれないんだって。……それが、身体のことなのか何なのかは、あいつらにもよく分からないらしいんだけど……。でも今、ここにいるミツキの、脳波ってやつが、急激に薄れてきているのは、確かなんだって」

「……」

「この状態が、どういう意味なのかは分からない。けれどそれが今ここに居る、ミツキが眠くなってしまうことの原因だとしたら……。これ以上、何が起こるか分からない。だから、これはかなり危険な状態なんだって思った方がいいって、あの三匹は、そう警告してくれたんだ」

「……」

「なあ、ミツキ」

「……」

「……何か、言ってほしいんだけど」

陽が、私の顔を覗き見た。

「……」

「ミツキ」

「……陽は」

「ん?」

「陽は、平気なの……?」

「何が?」

「……陽の、本当の話を、聞いてしまって……」

「……俺の、本当の話?」

「貴方が、本当は今も、……森の中で眠っていて。何千年も昔の、ポケモンで。……この世界は、貴方の、夢の中の世界なんだ……、って……」

「……。それを聞いて、俺が平気か……って?」

「……うん」

「うーん。そうだなあ……」

言葉を探すように、彼は自分の首元を掻いた。そして。

「色々なことが分かって、…………びっくりしたよ。…………。…………でも、ミツキが今、危険な状態なんだってことの方が、俺は心配だよ」

彼は私に、そう言った。
私にはその言葉が、酷く、不思議に思えた。

「……どうして? どうしてそんなこと、言えるの……?」

「え?」

陽は少し驚いた顔をして、私を見た。

「どうして、無条件にそんなことが、言えるの? ……陽、貴方、自分のこと、ちゃんと聞いたの? 貴方は目覚めた時、そこは貴方の元居た世界じゃない……ずっと、もうずっと、先に在った世界なのよ……? けれど貴方は、ずっと、ずっと永い間、眠りながら生き続けてきた…………。それが今、目覚めたとして、ここに居る貴方と同じように、生きていけると……思う? 今みたいに、自由に、歩いて、話して、笑って、生きていられるなんて、思う……? 私…………、は、そうは、思わない……。現実の世界の貴方が、今の貴方と同じ様に、生きていけるとは、思えない……よ…………」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……なあ、ミツキ…………あのさ」

「……」

「それは俺が、ミツキに対して思ってることと、同じなんだよ…………って、分かってほしいんだけど……」

「……」

「それが理由じゃあ、駄目かな」

「……」

「……ミツキ」

「…………そんなの」

そんなの、ずるいよ……。
けれど、そんな言葉でさえ声に出して言うことが、できない。
言葉が胸につっかえて、痛い。
苦しい。苦しいよ、陽……。

どうして貴方は、そんなに落ち着いていられるの?
自分の身が無事でなくなるということが、怖くはないの?
私は、怖いよ……。
貴方がこの世界から居なくなってしまうということが、怖くて仕方がないよ、陽…………。

黙る私に、陽はまた、困った様に笑った。
そして彼は、私の名前を呼んだ。

「ミツキ」


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