夏の陽と月

 23.

私を見つけてくれた時の陽のぬくもりは、嬉しかった。
とても暖かくて、ほっとした。
彼の方から見つけてくれるとは思わなかったから、喜びもひとしおだ。

けれど少しだけ、私は驚いてしまった事がある。
あの時、彼の顔は何故か酷く青ざめていた。
息を切らし、赤い髪を乱し、怯えたような目で、私を見つめていた。
そして、私に何度も謝った。
ごめん、ごめん、と。何度も。
私の両手を握り、俯いたまま、彼はただそれだけを繰り返していた。

周りの人からすれば、その光景はさぞ不思議に写ったことだろう。
いや、実際に周囲の視線は嫌という程に感じていた。
それを理由に離れてもらうよう頼んだのは、言うまでもない。
もういいよ、と。
すると彼は、今にも泣き出しそうな目をして、再び、ごめん、と言った。

陽は何故、あんなに謝ったのだろう。
何故、あんなにも悲痛な表情をしていたのだろう。
彼はただ、飲み物を買いに行ってくれただけなのに。
時間が遅れてしまったのは、あの人混みからして多くの店が混んでいた為だろう。
市場から飲み物を販売している店を探し出すのも、一苦労だったに違いない。
ああ、それとも、私が遅すぎるからと海岸で鬼の形相をして待ち構えているとでも思ったのだろうか。
……それにしては、怯え過ぎの様な気もするのだが。

訊こうにも、彼は今、幸せそうにサンドイッチをむさぼっている。
今は、そんなことを訊くタイミングでは無いだろう。
彼を見ていると、ふと視線がぶつかった。

「うん? どうした?」

「あ、ううん。何でもない」

慌てて首を横に振る。
何だろう。
彼は何か、私に隠し事をしている様な気がする。
ナイショ、以外の何かを。

「ねぇ、陽……」

「んー?」

「……ううん。ごめん、何でもないわ」

だめ、訊けない。
訊いてはいけない気がする。
いま訊いてしまったら、何だか、陽が遠くへ行ってしまいそうな気がする。
一緒に、いてくれなくなる気がする。
どうしてだろう。

「んんんー? なんなんだぁ?」

表情に疑問符を浮かべつつ、彼はサンドイッチの最後の一口を放り、ぱくりと食べ上げた。

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