夏の夜の夢
221.「ピスカを目覚めさせる方法はたった一つ。三日月の羽根を使うことだ。その羽根を、お前の身に託す」
「そんなことが、できるのか? 僕は今、千年の眠りに就いているというのに」
「できる。お前が、ピスカの悪夢の中に、入り込めば良い」
「……! そんなことが、可能なのか?」
「私の力を使えば、可能だ。しかし……」
「しかし?」
「お前に与えられている永遠の命は、一度ここでついえてしまう。千年経っても、お前が目覚めることはなく、新たな森の王、ゼルネアスの命には、新たな魂が宿ることだろう。ピスカが無事に目覚めたとしても、お前が目覚める事は、二度と無いのかもしれないのだ」
「構わない。僕の魂に未練があるとすれば、それはピスカの未来を失ってしまったことだ」
「……。分かった。それにもう一つ」
「何だ」
「お前の魂は、一度死んでしまうことになる。そうしてピスカの夢の中に入った後、お前は、お前自身の記憶を失ってしまうだろう……」
「……? それは一体、どういうことだ?」
「お前は新たな身体と、新たな記憶で、ピスカを夢の中から救い出さなければならない。……それがどれだけ難しいことなのか、分かるか?」
「…………。ああ、それは確かに、とても難しいことだな」
「……」
「……」
「……私も出来るだけ、お前が記憶を取り戻せるように、そしてピスカと再会できるように、努力しよう。しかし、それはとても難しい……。それでもお前は」
「いや、一瞬でも迷った自分が情けない。やるよ。やらせておくれ」
「しかし……」
「何も躊躇うことなどない。僕が僕であることの意味は今、この先にあるのだから」
「……そうか」
「ああ」
「……私に」
「?」
「私に何か出来ることがあれば、言ってくれ。お前達の運命は余りにも、残酷過ぎた……。私は刑の執行者だが、それでも、お前達のことは救ってやりたいと……。そう、思うのだ……」
「……そうか。ありがとう、ダークライ。とても嬉しいよ」
「……」
「そうだな……。もし僕がピスカの夢の中で自我を失ったままで、……例えば三千年経ってもこの計画が成功しないようであれば……」
「……? なんだ。申してみよ」
「ピスカが寂しがらないように、誰か友人……恋人でも作れるようにしてやってくれないか」
「……は?」
「そうだな……誰か人間を一人、ピスカの夢の中に落としてみてやってくれよ。ピスカはな、人間が好きなんだ。憧れている。…………いいだろう? 一人ぐらい。きっと君は、僕の知らない世界のことだって知っているに違いない。こんな広い世の中だ。今生きている世界から逃げ出したいと思う奴の一人や二人、すぐに見つかるだろう」
「……まあ、そうだな」
「ああ。頼んだよ」
そうして僕は、ピスカの夢の中へ入り、そして夢の中で目覚めたとき、僕は僕自身の身体と精神を失っていた。
たった一つ、三日月の羽根だけが、僕に与えられている全てだった。
そして…………。
あれから、どれだけの時が過ぎたのだろう。
どれだけの時を、待ったのだろう。
ついに、このときがやってきたのだ。
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