夏の夜の夢

 222.

「もりのおうさまはね、ずいぶんとながいあいだ、おにいちゃんをさがしつづけていたんだよ」

僕の顔はもう、涙でぐしゃぐしゃだ。
きっと笑っているのか泣いているのか、よく分からない顔をしていることだろう。

「ずっと、ずっと、このときをまっていたんだ。やっとみつけたんだ。やっと、あえたんだ」

「…………」

「またあえて、うれしい……」

「…………。…………智秋、お前」

「まって、まって。えへへ、おかしいな。なみだが、とまらないや」

素直に言葉が、あふれ出てくる。
でも、思ったより出てこない。
本当はもっとたくさん、話したいこととか、たくさん、あったのに。

「もうあまり、じかんがないんでしょう? だから、はい。どうぞ」

「……」

三日月の羽根を手渡す。
彼の手は思ったよりも大きくて、あたたかい。

「あとね、クレセリアのいるばしょを、おしえてあげる。いいかい? おねえちゃんといっしょに、そこへいくんだよ」

そして僕はそっと、彼に耳打ちをした。
なんだかそれがとても懐かしくて、僕はまた、泣いてしまいそうだった。

「それじゃあぼく、もういくね」

「えっ!? ちょっと待て、智秋!!」

三日月の羽根を渡した。
クレセリアの居場所を教えた。
夢から目覚める方法を、彼に伝えた。
つまりそれは、僕が役目を終えたということ。
それは僕がここに存在する理由を、失ったということ。

「またないよ! さよなら、おにいちゃん!」

「待てって言ってるだろ!!」

走る、走る。

「おにいちゃん、ありがとう!! さよなら、さよなら!!」

朝焼けの海を凪ぐ、あの風のように。

「おねえちゃんにも、つたえて!! きみにであえて、ほんとうに、よかったって!!」

「おい、聞けって!!」

涙が風に溶けて、ひんやりと冷たい。
朝日がきらきらと輝いていて、美しい。

「なあ智秋、お前……!!」

「きこえない!! きこえないよ、おにいちゃん!」

「くそっ……! おい!!」

さあ僕も、あの光に紛れようか。

「さらば、さらば、ピスカ……!! 我が、腹心の友よ……!!」

「あっ……!?」

ごう、と突風が駆け抜ける。
僕の身体が、朝日に溶けてゆくのが分かる。
ああ、なんて、気持ちがいい。
ああ、なんて、あっけない別れ。
もっと君に話したいことが、たくさん、たくさん、あったのになぁ。

「ロン……!!」

ピスカ。
ありがとう。

*****


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