夏の陽と虫

 32.

早速、調べた事が役に立った。

ここから少し離れた所に、ヒウンシティという街がある。
イッシュ地方で最も栄えているであろうその場所は、多くの人々やポケモン、ビルディング、喧騒に包まれているという。
そんな都市の中にあるのが、ヒウンジム。ポケモンジムの一つだ。

ポケモンジムとは、一言で言えばポケモントレーナーがポケモンバトルの腕を上げる施設。
責任者であるジムリーダーを筆頭に、ある時はトレーナー達の修行の場に、ある時は挑戦者を迎え撃つ場となる。
日々練磨して得たその卓越した強さから、事件等が起きた場合には街の治安を守る役割も果たしているのだという。
そのヒウンジムでジムリーダーを務め、尚且つアーティストとしても活躍しているのが、いま目の前にいる男性、アーティさんだ。

「あはは。ハッサムくん、そんなに睨まないでよー」

ジムリーダーとは、ポケモントレーナーの中でも特に実力が高いと認められている人物。
ジムリーダーは各地方のポケモン協会の選出、任命により就任することができ、各地方に数人しか居ないらしい。

そんな人が、何故こんな所にいるのだろう。
陽もそんな気持ちなのだろうか。
……凄い勢いで睨みつけている。

「にらんでなんかないっすよ? ただ、そんなすごい人が、なんでこんなとこにいんのかなーって」

本人は隠しているつもりかもしれないが、警戒している様子が肌でも感じられる。
触れる空気がピリピリとして痛い。
こんな恐い表情の陽は、初めて見た。
……少し、身震いする。
どうしたのだろう。

「ぬぅー。虫ポケモンにこんなに嫌われたのは、久し振りだぁ」

「……」

黙って、相手を睨む陽。
もうやめてよ、その恐い顔。

「!? いて! いてて!! なにすんだミツキ!」

「何って。陽が恐い顔してるからでしょ」

「だからってほっぺ! ツネるなよ! いてててて!!」

「ごめんなさい。うちのポケモンが」

陽の頬をつまんだまま、相手に謝罪する。
急に話しかけられたのは確かに驚いたが、喧嘩を売る様な陽の態度は、如何なものかと思う。
ここは、トレーナーの私が詫びを入れるべきだろう。

「あははー、いいんだよぉ。ボクの方こそ、ごめんねぇ。急に話しかけちゃって」

感覚で行動しちゃ駄目だって、いつも言われちゃうんだよねぇ、と彼。
……感覚で行動とは、どういう事なのだろう?
アーティストの人の間では、よくあることなのだろうか。

「それより、もう離してあげたらー? ハッサムくんのほっぺ、可哀想だよぉ」

「えっ」

そう言われ、ぱっとつねっていた陽の頬を離す。
しまった。ちょっと赤くなっている。

「ううー! ミツキ、ひでぇ!!」

「ご、ごめん……!」

「うー! 仕返しだー!」

彼はそう言って、つねられた頬をさすりながら、片手を私の頬へ伸ばしてくる。

「いやよ! やめなさい!」

「あ! よけんなー!」

互いの腕をよけつつ、よけられつつ……。
そんな私達のやり取りを、にこやかに傍観しているアーティさんがいた。

「仲良しさんなんだねぇ」

……陽が警戒する様な悪い人には、見えないけれど。


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