夏の夜と彼

 3.

「俺さ、この辺りには割と詳しいんだよ。いろいろと案内してやれる。
あと、おねえさん一人でこの辺を歩き回るのって危険なんだよ。だから、俺が用心棒してやる。
あ、ちなみに俺、ポケモンな。だからいざって時は、ばっちり戦えるんだぜ!」

とてもいい笑顔で青年は私に話し続けた。
場所はポケモンセンターのバルコニーと変わっていないが、私達はベンチへと腰を下ろしていた。
何なのだろう。彼のこの爽やかさは。話している事は強引極まりないのだが。
訊きたい事は山ほどある。しかし、やけに気になる言葉が出てきた。

「ポケモン? 君が?」

「ああ、そうだぜ。なんだ、やっぱ気づいてなかったのかー」

言ってよかったーと胸を撫で下ろしている。
ポケモンなら、ここへ来る途中で何度か見掛けた。
人間と共に散歩していたり、仕事をしていたりとその姿や立場は様々だ。野良であろうポケモンもいた。
しかし、

「人間に、なれるんですか? ポケモンが」

「ああ、なれるぜ」

にかっとこれまた爽やかな笑顔で返された。
髪の色も相まってか、眩しくて仕方がない。夜なのに。

「知らなかった……」

ため息交じりに、そう呟いた。
驚き過ぎて、疲れてしまった。
あまりオーバーなリアクションが出来ない。
やっとここの事が分かってきた、
そう思っていたはずだったのに。
そんな事を考えていると、

「あのさ、他の人にこういう質問するの、やめてくれよな」

急に困った様な、笑顔の無い表情で話される。

「こういう質問って?」

「こういう、常識的な質問、かな。だってさっきから知らなさすぎだぜ、おねえさん。」

「え? あ、はい。すみません……」

何故、いきなりそんな事を言うのだろう。
よく分からないが、私はここの事を知らな過ぎている、という事実を真正面に受け、私は少なからずショックを受けた。
まあ、当たり前なのだが。

「うーん。ま、それ守ってくれればそれでいいんだけどな」

やっぱり、最後にはにこにこして返される。
この青年、私が自分を警戒しているという考えは持っていないのだろうか。
私はまだ、彼のトレーナーになるとは言っていない。
……トレーナーがどういうものかも分らないが、
話の流れからして、行動を共にする人間とポケモンの関係、といったところだろう。

「けどまあホント、よくポケセンに来たよな。ここならまあまあ安全だし、良かったけどな」

彼は続ける。

「それにしてもおねえさん、どこから来たんだ? どうやってここまで来れたんだ?」

「ああ、それは」

それは、もう何日も前の事の様に思える。たった数時間前の出来事だ。


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