夏の陽と虫

 35.

「え……?」

最初に声を発したのは、他でもない。私だ。
ハッサムじゃない?
陽が?
隠していた?
私に?
……もう、何が何だか分らない。

「ほら、びっくりしちゃってるよぉ? ハッサムくんのパートナー」

「……」

陽は訊かれても何も応えない。
黙ったままだ。
私も何も言えず、アーティさんの言葉をただじっと聞いていた。

「ボクにはよく事情が分からないんだけど……。でも、彼女に隠してたって事は本当みたいだねぇ」

「……」

「彼女を騙して、何かしら危害を加えようとしていたのなら、ボクは止めるよ? 今ここで」

そう言って、アーティさんが自分の懐からモンスターボールを取り出す。
まさか、バトル……?
ちょっと待って欲しい。
何なの、この展開は。

「あの!」

「んー? 何だい?」

アーティさんが手を止めて、こちらを振り向く。
陽は……、黙ったままだ。
黙ったまま、ただ険しい表情で唇を噛み締めている。
何なのよ、もう……。

「私も……私も、よく分からないんですけど、でも、陽がそんな、危険なポケモンだとは思いません」

これは、私の本心。
陽は、そんな事を考える様なポケモンでは無いと思う。
確かに、最初は色々と疑っていたが……。
でも、陽は陽だ。
あんな明るい笑顔を向けてくれる人を、疑いたくない。
あの笑顔を知っているのは今、私だけなのだ。

「キミねぇ。…甘いよ? 考えが」

信じたい気持ちは分かるんだけどねぇ、とアーティさん。
その言葉の後、沈黙を通していた男が、ようやく口を開いた。

「俺……、ミツキにひどいことしようなんて…。そんなこと、思ってねぇよ……」

それは弱々しくかすれ、今にも消えてしまいそうな声だった。

*****


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