夏の陽と虫
37.俺の話を聞いている間、ミツキはずっと俯いたまま黙っていた。
黙ったまま、じっと聞いていてくれた。
化け狐ポケモンである俺は、イリュージョンという特性をもっている。
それはポケモンも人間も関係なしに、幻を見せることができる、という能力だ。
……それなりのコントロール力なら、持ってるつもりだ。
だからその場にいる全員に、同じものを見せることだってできる。
特に自分の姿を変えることは、得意分野だ。
姿を変え、相手を眩ませ、勝負に勝つなんて、俺にとっては容易いこと。
……でも、だからこそ、人間には理解してもらいにくい。
いや、人間だけじゃない。
ポケモンにも、だ。
化かす。欺く。騙す。
どの言葉をとっても、耳ざわりで、最低なんだ。俺たちの能力は。
だからこそ俺たちは人間や他のポケモンを避けているし、相手も近寄ってこない。
……たまに仲間にしたくてやってくる人間もいるけど。
もちろん、この特性が目的で、だ。
まぁこんな能力、どうせロクなことになんか使われねぇ。
それが嫌で、人間のもとで暮らしたことなんて、一度もなかった。
他の仲間だってそうだった。
いちど人間につかまっても、すぐ群れに帰ってきた。
すぐに捨てられて、帰ってきた。
いらない、と。
もう嫌だ、と。
やはりお前の能力は、気味が悪い、と。
……そんなこと、知ってる。
俺たちの力が変で、奇妙で、気持ち悪いことなんて、他でもない俺たちが一番よく知ってる。
でも、それでも人間の力になれるなら……。そう思って、仲間になったのに。
力を、貸したのに。
こんな嫌な想いをするくらいならと、俺たちと他のやつらの距離はどんどん離れていった。
だから、人間の中には俺たちの存在すら知らないやつが多くいる。
そういう意味では、めずらしいポケモンなんだ。俺たちは。
じゃあ、ミツキは…?
ミツキは、どう思うんだろう。
俺のこと、気色悪いと思うだろうか。
嫌われるだろうか。
離れて、しまうだろうか。
……それに俺、ミツキに黙ってたもんなぁ。
つい、言いづらくて、言い出せなくて。
なにやってんだろうな。俺。
これじゃあ、ミツキに嫌われる。
ミツキが、離れてしまう。
一緒に、いられなくなる。
ああ、だめだ。俺。
もうミツキの顔、見れないかもしれない……。
ふと、今までずっと黙っていた結麻が、呟く。
「ミツキ、どうしたの? ……泣いてるの?」
横を見ると、ぽたぽたと落ちるしずくが見えた。
なかなか止まないそれは、白いワンピースの上に灰色のシミをつくった。
そしてそのシミは、少しずつ、どんどん大きくなっていった。
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