夏に潜む影

 52.

「……凄いな、貴様の能力は」

驚いた様に呟く貞女は、茫然と足元を見つめた。
今、俺たちは電線の上に立っている。
もちろん、今は人間の姿では無い。
ポケモンの……ハトーボーの姿だ。
俺の能力、イリュージョンを使って俺と貞女、二人の姿をハトーボーに変えた。
所詮は幻覚なので実際に俺が飛んだりする事は出来ないが、相手を撹乱する事は出来るだろう。
ここで、やつらがあきらめてどこかへ行くのを待とう。
貞女の言う通り、このままホテルの部屋へ帰る事は出来ない。

「貴様のこの能力、中々に便利ではないか。わらわは初めて見たぞ」

「……そーかよ」

「ふん。折角褒めてやったのに、可愛くないやつじゃ」

「……」

「陽よ」

「……」

「わらわの言いたい事は分かっておるな?」

「……何だよ」

なに、もったいぶってんだよ。
やっぱり嫌な性格だな、お前……。

「勘違いされては困るので率直に訊くぞ。やつらに付け狙われているのは、貴様か? それとも、ミツキか?」

「何も訊くなって言っただろ……。応えねぇぞ」

「貴様の様子からして、この事態は初めてでは無いとみた。恐らくは、前々からあった事なのだろう? 我が主は心の広い御方だ。貴様らの様な力無き者が困窮していると知れば直ちに救いの手を差し伸べられるであろう。どうだ、我ら主に事の全てを話してみぬか。必ずや、力になるぞ」

そう俺に説得する貞女の眼は、どこまでも真っ直ぐだった。
良くも悪くも、こいつは嘘を付かない。
こいつが力になると言ったのも、決して嘘では無いのだろう。
でも、ダメだ。
ダメなんだ。
これは、もう。

「貞女……」

「何だ陽よ、ようやく口を開くつもりになったか。良いぞ、申してみよ」

「この……誰かに附けられたって事は、帰っても、ずっと、誰にも話さないでくれ……」

「……は?」

まるで訳が分からないといった様子の貞女。
そりゃあ、当たり前か。
でも、ダメなんだ。
言ったら、ダメなんだ。
どうか、どうか……

「特にあいつには……、ミツキには、絶対に言わないでくれ。……頼む」


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