夏に潜む影
58.*****
「ミツキ、大丈夫なのかよ……」
正直、今の俺は生きてる心地がしない。
だってミツキのやつ、海のど真ん中にいるんだぞ…?
あれで落ちたら、俺、すぐに助け出せるかな…。
「もー、そんなに睨むような目で見ないでよー! 雪解は空を飛ぶの上手なんだから、絶対に大丈夫!」
「その自信が逆に怖えんだよ! それにあいつは、……本当にトレーナーなり立てなんだよ」
ミツキは、ただの初心者トレーナーどころじゃない。
ポケモンに、大して触れたことも無いやつなんだ。
それなのに、急にあんな上級者トレーナーが使う技を…。
「ボクもあんまり気乗りしないなぁ……。ここがイッシュじゃなかったら、下手すれば犯罪者だよぉ?」
そう言うアーティは、自分のサングラスを前頭部に掛けた。
……こいつの仕草、いちいち腹立つんだよなぁ。
ていうか、否定するならもっと真剣に説得してくれ。
アーティの言う下手をすれば犯罪者、というのは本当だ。
ここイッシュでは決められていないが、多くの国でこの空を飛ぶ技は上級トレーナーのみが使える様に規制を設けている。
その方法は様々だが、中で最も分かり易いのは、ジムバッジによる認定だろう。
ジムバッジとは、こいつらジムリーダーを倒すと受け取れる証明みたいなもんだ。
もちろん、ジム戦と呼ばれる戦いでは、こいつらはそれなりに手加減しているんだろうけど……。
このジムバッジの数や種類によって、トレーナーとしての実力が目に見えて分かる。
それにより、トレーナーとして出来る事の幅が増えるのだ。
大きいものだとポケモンリーグへの挑戦許可、小さいものだとバトル用アイテムの購入権、といったところだろうか。
外国では、かなりのジムバッジを集めなければポケモンに乗って空を飛ぶ技が使えないところもある。
それほどまでに大変で、危険な技なんだ。これは。
「ミツキ……」
「ねぇ、キミ達ってさぁ」
「ん?」
心配する俺に、アーティが話し掛けてきた。
何だよ。今、それどころじゃねぇんだよ……。
「ジムに挑戦する気はないの?」
「……は?」
ジムに挑戦って……、ミツキと俺が?
「いや、考えてなかったけど……」
大体、そんな事をする必要がない。
目的が目的だから、……なぁ。
まあ、ジムバッジの一つでも持ってたら、安心と言えば安心だ。
でも、別に強くなりたいわけじゃねーし。
もちろん、ミツキがやりたいっつーなら挑戦するけど。
「そっかぁ。なら、いいんだけど」
……何なんだよ、こいつ。
俺、アーティと話してると本当にいらいらするんだけど……。
やっぱ虫タイプのトレーナーだからかな。うん。
「ねぇねぇ! 私ずぅっと気になってたんだけどね、キミたちの旅の目的って、一体なんなの?」
アーティの陰から、ひょこりとフウロが顔をのぞかせた。
うわ、めんどくせーのにからまれちまったなぁ……。
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