夏に映る姿

 64.


「全く……。汚らわしい事この上無いな」

目の前の男性はそう言って、眼鏡のフレームをかちゃりと上げた。
神経質そうなその動作に、ああ、この人はそういう人なんだと、私はやけに冷静に考えていた。

ぴりり、と頬に小さな電流が走る。
少しだけ痛みがあるものの、痺れる事も火傷を負う事も無い。
最初の頃こそ驚いていたが、もう慣れてしまった。

ここは、電気石の洞穴。
ホドモエシティとフキヨセシティの間にある山々を抜ける為の洞窟だ。
ここは洞窟自体に電気が流れており、周囲の岩石は青白い光を帯びている。
その光景はあまりにも神秘的で、言葉を失ってしまう程だった。
しばらく洞窟内を歩いていたので、もうそんな感動はどこかへ行ってしまったのだが。

ぴりり、と先程より少し小さい音が、隣から聞こえた。
陽からだ。
陽の周りにも、小さな電流が幾つか集まっている。

「いやー、わりぃな。これが今の俺の姿だから。勘弁な」

そう笑って、陽は頭を掻いた。
上げた右腕からは、ぼろぼろと塵屑の様な物が落ちる。
その様子を見て、研究員と名乗る男性は再び顔をしかめた。

「今の……? 全く、訳が分からない」

男性にそう言われて、私も陽を見上げた。
今の陽の姿は、私も初めて見た時は驚いた。
あの時は初めて見るポケモンに感動したというより、その形容しがたい姿に絶句してしまっていた。
……正直、引いていたのかもしれない。
その事を本人に言うと、それが狙いだから、と笑われた。

ダストダスというらしいその姿のポケモンは、毒タイプ。
高さ2メートル近くある巨大な身体を形作るのは、大量の廃棄物。ごみだ。
頭部にはごみがあふれ出てしまったかのごとく、袋の様な布状の覆面をしている。
本物のダストダスはその姿から想像出来る通り、物凄い異臭を放つ者が多いという。
そのお陰で彼らは特に天敵も無く、平穏に過ごせるのだとか。

そして陽は今、その姿と特性を利用している。
ダストダスのその姿は、人間から見てもポケモンから見ても、存在感は抜群に高いらしい。
野生のポケモンに遭っても、はたまたポケモントレーナーに出会っても、そそくさと私達の周りから離れていく。
あいつの周りは、悪臭がするぞ、と。
実際、イリュージョンによって変化しているだけの陽から、異臭が放たれることは無いのだが。
だからこそ、誰にも遭遇することなく、私達はここまでやって来ることが出来たのだ。
……この男性に、会うまでは。


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