夏に映る姿
65.陽曰く、この洞窟には陽の苦手なポケモンが多く生息しているらしい。
防御力の高い鋼タイプや岩タイプ、それに、虫タイプのバチュル。
もちろん逃げてもいいのだが、狭い場所ではどうしても逃げきれない事がある。
それに、洞窟はここにいるポケモン達の住処なのだ。
当然、遭遇する確率は大幅に高くなる。
頻回に出てくるポケモン達から逃げても、体力を無駄に消耗するだけなのだ。
だから、戦闘を避ける為、ダストダスの姿を借りてここまで進んで来た。
それだけの事だ。
この男性も、ダストダスの事は敬遠しているらしい。
ここは早く、この場を離れた方が良さそうだ。
「あの、すみませんでした。私達は、これで失礼します」
そう言って、私は陽の手……であろう所を引っ張り、一歩踏み出した。
陽も、素直にそれに従おうとした。その時だった。
「待ちたまえ」
ぴしゃり、と男性の声が響いた。
「え……」
振り返ると、眼鏡の奥から鋭い眼光を覗かせる男性の姿があった。
「困るんだよ。こうやって、私の大切な研究場所を汚されるのは。悪いがそのダストダス、すぐにモンスターボールへしまってくれないか」
「そ、そうなんですか……?」
「迷惑なんだ」
男性に言われ足元を見ると、確かに陽が落としたであろう粉塵が舞い落ちている。
まぁ、幻覚なので実際には存在しないのだが……。
「わりぃなぁ、おっちゃん。それがちょっと理由があって出来ねぇんだ。すぐにこっから離れるから、許してくれ」
自分の事について言われているにも関わらず、陽は特に落ち込む風も無く返答した。
実際、陽自身はダストダスでは無いので何とも思っていないだけなのだろうが。
ただここは少し、悲しんだり怒ったりしてもいいんじゃないの…?
そういう、ふりでもいいから。
もし私が本当にダストダスのトレーナーだったら、それはもう、悔しくて仕方ないと思う。
こんな言い方をされて。
「私の研究場所はここだけでは無い。この洞窟内全てだ。洞窟を出るまで、そのダストダスはボールの中へ入れておくように」
そう言って、男性はモンスターボールを私へ投げて寄越した。
どうやら、空のモンスターボールの様だ。
……全く、なんて人だ。
初心者トレーナーである私と言えど、空のボールぐらい持っている。
これをやるから、大人しくダストダスをボールに入れなさいと、そういう事なのだろうか。
顔を上げると、男性はしゃがみ込み、随分とせいせいした顔でパソコンを取り出していた。
もう、研究の為の準備をし始めているらしい。
「……」
もう少し紳士的な人だったら、こんな気持ちで陽をモンスターボールに入れる事も無かったのに。
そう思い、モンスターボールを陽に向ける。
凄く微妙な表情をしていた陽だったが、拒むことも無く、黙ってボールの中に入ってくれた。
「失礼しました」
そう言って、私はその男性の元を立ち去った。
受け取った空のモンスターボールは、そっと足元に置いて行った。
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