夏の夜と彼

 7.

夢を見た。
夢を見るなんていつ以来だろう。
そう思い、私は瞼を開けた。
瞼を開けた途端、夢の記憶は薄れてしまった。

ここはポケモンセンターの一室。
旅するポケモントレーナーの為に開かれた一室だ。
もしかしたら……とも思ったが、やはりいつもの自室ではなかった。

そういえば、あの青年はどうしたのだろう。
辺りを見回すが、どこにも居ない。
やや強引ではあったが、彼のお陰で、こうして屋根やふかふかなシーツのある部屋で眠れたのだ。
一言、お礼を言わなければ。

立ち上がると、めまいがした。
そういえば、昨日から食べ物を何一つ口にしていない。
ふらつきながら狭い部屋の隅から隅まで探すが、見当たらない。
もう、どこかへ行ってしまったのだろうか。
そう思った矢先、がちゃがちゃとドアの鍵を開ける音がした。

「あっ! 起きたのか!」

ドアが開き、昨夜の青年が現れた。
相変わらず、からっとしたいい笑顔だ。
腕に紙袋を二つ、抱えている。

「まだ寝てて良かったのに。早起きだな」

椅子に座り、小さなテーブルの上で紙袋の中を漁り出す。
中からは大き目のパン一つと二本の瓶牛乳。そして、小振りな桃が数個出てきた。

「腹減ってっかなーと思って、買ってきた。取りあえず、これくらいしか思いつかなかったんだけど……他になんか食いたいものある?」

「ううん……いい。ありがとう」

こんなことをしてくれるとは思わなかった。
驚きと嬉しさが、自然と込み上げてくる。

「へへっ。いーっていーって。あとさ、これは引かれるかもって買うの迷ったんだけど、一応、渡しとくな」

まだ何かあるのか。
そう思いながらも待っていると、何かを差し出された。
どうやら服の様だ。

「そのカッコじゃ、外歩きずれえかなーと思って」

手に取り広げてみると、白いシャツ型のワンピースだった。
眺めていると、彼は紙袋からまた何かを出してきた。
赤いスニーカーと、白地に黒いラインの入ったスニーカーソックスだ。

「シュミ合わなかったらわりぃな。流石に、下着とかはな……。後で自分でそろえてくれよ?」

「……」

「え、やっぱ気持ち悪かったか? ごめんな、こういう時どうしていいか分かんねえんだ、俺」

「そんな事ない。ありがとう。本当にありがとう」

どうしていいか分らないのはこっちの方だ。
何だか、言葉に出来ない。
見ず知らずの人に、ここまで助けて貰う事になるなんて。
素直に感謝の言葉が出ていた。
お金の事を訊くと、金ぐらい俺だって持ってるよ、とよく分からない返事で流された。

「そんな事より、着替えて来いよ。早く飯食おうぜ」

彼曰く、部屋を出てすぐに共同のシャワールームがあるらしい。
シャワーでも浴びて着替えてくるといい。そう言われたので、そうすることにした。
まさか、こんな事になるなんて。
安心やら恥ずかしさやらで胸がいっぱいで、部屋を出てすぐに、私は溜め息を付いた。


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