夏に映る姿

 68.

*****

おかしい。
本当に、おかしいことになっちまった。
そんなことを考えながら、俺は一人、雨に打たれながら背の高い草むらの間を駆けている。

日が落ちる前までは、本当にいい天気だった。
盆地だからかすげぇ蒸し暑かったけれど、雲一つない快晴だった。
だから、今日中にはフキヨセ空港で飛行機に乗り、ヤマジタウンへ行けるはずだと、俺は思っていた。
……本当は海外へ行きたかったんだけど、ミツキに止められた。
ちなみにヤマジタウン行きの旅客機は、なんとあのフウロが操縦するらしい。
フウロとの再会を楽しみにしていたミツキは、欠航の知らせを聞いたとき、凄く残念そうにしていた。
俺はフウロの操縦なんて、怖くて、全っ然、楽しみなんかじゃねぇけど。

欠航の理由は、まあこれだ。
大嵐。
さっきから髪の毛が顔にはり付いて、気持ち悪い。
嵐の時は外に出ちゃいけねぇのは俺もよく分かってるけど、今はそれどころじゃない。

なんか変だなって気付いたのは、空が分厚い雲でかげり始めた頃だった。
だからポケモンセンターへはミツキだけ中に入らせて、俺は外に残った。
やっぱり、ミツキを危険な目に遭わせるのだけは、絶対に嫌だ。
もう本当に、駄目だ。
好きな女の子に嫌われたくないって気持ちは、もちろんある。
だけど、それ以上に、その…良いように利用、させてもらってる訳だし。
はぁ。
俺ってつくづく、最低な奴だよなって思う。
分かってるよ。

しばらく外をぶらついていたけど、特に何もなかった。
嵐が来る前だってことは、みんなニュースなんかを見ていて分かっていたらしく、各々が速やかに建物内へ避難していく。
この近辺では、突然の嵐はよくある事なのだそうだ。
やっぱ俺も、どっかに入ってた方がいいのかなぁ、とか思ってみたり。
そんな時だった。

「あ、の……」

砂みたいな声が、聞こえた。

「……と、つぜん、す 、ま、せん」

この豪風に吹き飛ばされそうな、声。

「あ、なた、……は」

それでも俺には、はっきりと聴こえた。

「ピ、ス…… 、  ……?」


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