夏の嵐の夜

 72.

御風は、雨の日は大抵、人の姿になる。
羽毛が湿気を含んで、とても重くなるそうだ。
今も、御風はポケモンの姿ではなく、人の姿になっている。
人型になり始めた最初の頃こそ、気圧が低いと頭が痛くなるだとか関節が軋むだとか、散々文句を言っていたのだが。
今はもう慣れたのか、そんな事は全く言わなくなった。

「誰か、来ますよ」

それでも、人の姿になっても、こいつの感覚はポケモンの姿の時のまま、研ぎ澄まされている。
視覚も聴覚も嗅覚も、ひょっとしたら、痛覚も。
やっぱり、雨の日は頭痛が酷いのではないのかと、たまに、本当にごくたまにだけど、心配になるくらいに。

「来るって、誰が」

でも、別にそんな事、気に掛けてやるつもりはない。
人の姿になることをトレーナーである俺が強制した覚えは、一度も無い。
こいつが勝手に、自主的にやってることだ。

「誰かは、誰かです。人、だとは思いますが」

ポケモンの姿に戻りたい時は、いつでも自分で勝手に戻ればいいんだ。
もう一度言うが、俺がこいつに人の姿になることを強制した覚えは、一度も無い。

「ここの管理人かもな。一応、隠れとくか」

いつからだっただろう。
最近は、特に人間の姿になることが多くなった。
どうしてかは、分かんねぇ。

「隠れる必要が、ありますか?」

でも、いつからか、ボールから勝手に出てくる回数も増えたんだ。
やっぱり、どうしてかは分かんねぇけど。

「無断で夜中のタワーオブヘブンに雨宿りとか、ダメだろうが。頭おかしいやつだって思われる」

俺は比較的大きな墓石の陰に、身を寄せてしゃがみ込んだ。
俺より背の高い御風が、かがみながらこちらへやって来る。
目立つんだよなぁ、こいつの身長と髪色……。

「おい」

ボールに入れ。
そう言おうとした、その時だった。


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