夏の嵐の夜
73.ぴしゃーん。
この世のカメラのフラッシュを全部かき集めたんじゃないかと思う様な、激しい閃光。
それと共に、巨大な落雷の音が響いた。
この近く……いや、最早この建物に避雷したんじゃないかと思えるぐらい、鮮明で巨大な光と音だった。
こういうデカい建物の近くにはきっと避雷針があるだろうから、多分そっちに落ちたんだと思うけど……。
でも、驚いた。
人間って、本当に驚いた時って何も言えねぇんだな。
「おい御風」
返事は、無い。
ついでに言うと、あいつの姿も形も、どこにも無い。
「……」
足元には、鞄から転がったモンスターボールが。
ころ、ころ、と左右に揺れている。
「ふざけんなよ」
ボールはまだ、不自然に動いている。
はいはい元気ですよー、とか言われてるみてぇだ。
腹立つ。
どうやら、さっきの一瞬で御風は自分でボールの中へ入ったらしい。
ぴちゃ。
はっとして、身を硬くする。
明らかに、ここのものではない、何かが動いた音だ。
誰か、来たんだ。
やべぇ、気付かれたか?
息をひそめる。
心臓が、強く脈打っている。
ここの管理人とかだったら、どうしよう。
すげぇ注意されるだろうな。
何か、良さげな言い訳とかすべきなのか?
なんか、もうこんな墓石の裏なんかから出て行って、正直に話した方がいい気がしてきた。
……そういえば、停めてあるマウンテンバイクが丸見えだな。
これは、ばれるわ。
ぴちゃ。ぴちゃ。
「……」
拍子抜けなことに、真っ直ぐこちらへ向かってくると思われた誰かの足音は、どんどん遠のいて行った。
どうやら、階段を昇っているようだ。
……なんだ。
ふ、と溜め息を付いた途端、緊張がほぐれた。
肩の力が抜ける。
なんかこう、身体の空気がしゅーっと抜けてくみたいだ。
そして、それと同時に、俺の好奇心が疼いた。
誰が、何故、嵐の中、こんな時間に、こんな所へ?
……ちょっと姿をおがむくらい、いいだろ。
散々俺をびびらせやがった、仕返しだ。
そ……、と墓の端から階段の方を覗き込む。
そいつはまだ、上の方までは昇っていないようだ。
相当、足取りが重いらしい。
なんだ? あいつ。
見た所、人ではあるようだが。
そう思った矢先、黒い影が、ヒトモシの炎に照らされる。
……いつの間に、こんな下の方まで。
ふわ、と、その人物の姿が浮かび上がる。
「あ……?」
そこには、やけに見覚えのある姿が。
……あれは、いつだっただろう。
忘れもしねぇ。
あの、赤髪男。
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