夏の嵐の夜
74.俺、わりとつえーから。
それを聞いて、何かがむせる様にたぎり出したのは俺だけじゃない。
ボールの中にいた、御風もだ。
あんなストレートな挑発、久々に聞いた。
道端での、普通のポケモンバトルだったが、あの時はどんどん体の熱が上がっていくのを、抑えられなかった。
まあ、惨敗だったけどな。
……ハッサム相手に。
そのハッサムが今、ここにいる。
あの、ハッサムの横で始終おっかなびっくりしていた初心者トレーナーは、どこにもいない。
どこに行ったんだ……?
相方が、あんな状態なのに。
階段を昇っていくハッサムは、身体を無理矢理引きずる様に、よろよろと、階段の縁にもたれながら進んでいく。
寒いのか、身体をこれでもかと小さく縮ませている。
バカか。
そっちはヒトモシの巣窟だぞ。
虫ポケモンのお前なんか、魂どころか、身体ごと燃やされちまうんじゃないか。
近付く相手が、俺たちを咎める者じゃないって分かった。
今、俺たちは自由だ。
急いで階段の方へ走る。
近付いて分かったけど、あいつ、びしょびしょだ。
床が、濡れてる。
なんだよ。
俺、わりとつえーから。
そう言ってたの、どこのどいつだよ。
今のお前、クソよえーじゃねえか。
そんな悪態を頭の中で吐きながら、小さな水溜まりの跡を追う。
泥水が俺のスニーカーに踏まれて弾かれ、冷たい床へと飛び散っていった。
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