夏の嵐の夜
75.雨水を踏みつけながら階段を駆け上ると、さっきまで視界にあった赤髪が見えない。
ぶっ倒れてる。
階段の上で倒れるなよ。
バカかよ。
今と逆向きに倒れてみろ、転げ落ちて頭打って死ぬぞ。
駆け寄って、一瞬、息が止まった。
あいつじゃあ、ない……?
「ハヤタ」
ボールから出て来た御風に、呼ばれて振り向く。
急に出てくんな、クソケンホロウ。
「何をしているんですか。早く、傷薬とタオルを」
「お、おう」
御風は言うや否や、すぐに赤髪……だった奴を抱き上げてひっくり返し、肩を叩いて呼び掛け始めた。
「君、君! 大丈夫ですか! 聞こえますか!」
俺が思うに、こいつの嫌なところは、こういういざって時、冷静で的確な対処ができるところだ。
「これでいいか?」
御風に、傷薬とタオルを渡す。
俺も、もう一枚タオルを取り出してそいつに近付く。
うわ、ずぶ濡れじゃねぇか……。
俺がいま持ってるタオルじゃあ、足りそうにない。
こいつの毛並に染み込んだ雨水が、俺のタオルに浸透していく。
拭いていて気付いたが、こいつ、なんかぶつぶつ呟いてる。
なんて言ってるかは、分かんねぇけど。
でも、良かった。
取り敢えず、生きてるみてぇだ。
「ハヤタ、フキヨセのポケモンセンターへ連絡してください」
「え?」
「急患がいると。今すぐ行くと、連絡を」
「え、は? だってお前……」
「いいから早く」
いつもなら、雨の日は翼が濡れるから飛ぶのは嫌だとか何だとか、散々文句言うくせに。
背中に二人以上乗せるのは、嫌いだとか言ってたくせに。
言いたいことは山ほどあったが、何も言い返さなかった。
ライブキャスターを操作する手が、震える。
……なんだかなあ。
ああ、やっぱりここ、ちょっと寒いみたいだ。
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