夏の嵐の夜

 76.

「目に見える大きな傷はありませんし、少し荒いですが呼吸も心拍も安定しています。ただ、体温の低下が心配です。今こちらにあるタオルで、出来る限りの保温はしているのですが……。ええ、ええ。お願いします」

そう言って、御風はライブキャスターの連絡を切った。
ホント、こいつの小器用さは心底うざいと思う。

「ポケモンセンターで、検査をして下さるそうです。目に見えなくても、打ち所が悪かったらいけないからと」

早速、行きましょう。
そう言って、御風はポケモンの姿に戻った。
俺も、自分のマウンテンバイクを折り畳む。
うわ、いつぶりだろう。こいつの背中に乗るの。

折り畳んだ自転車を背負い、大事な患者サマを抱えて御風の背中に乗せる。
お、重い……。

「ハヤタ」

「あ?」

何だよ。
そう返しながら、俺も御風の背中に乗り、体制を整える。
サングラスを掛け、後頭部のバンドで固定する。
落ちてしまわないようにと、患者は太ももと片腕で支えることにした。
ったく、大丈夫かよこれ……。

「……いえ、何でもありません。後で話します」

そう言うと、御風は外へ向かって滑走を始めた。
……なんだろう。
今、御風の言いたいことが、何となく分かった気がする。
多分こいつは、俺と同じことを考えている。

風が、一段と強くなった気がする。
雷の音が、遠くの空から響いてくる。
夜の嵐は、まだ止みそうにない。


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