夏の嵐の夜

 78.

ゲーチスという男がいた。
このイッシュ地方を一時期大いに揺るがせた、プラズマ団という組織のリーダーだ。

ポケモンの解放。
それが、プラズマ団の謳い文句だった。
ポケモンの自由とは、何か。
今こそポケモンは人間の手から解き放たれ、自らの意志で動くべきではないのか?
今こそ人間は自己中心的な自らの愚かさに気付き、悔い改めるべきではないのか?
たしか、そんな内容だった。
声高らかに掲げるその言葉に、賛同した人々も少なくない。
後にイッシュの歴史に残る大事件を起こす彼らの最初の姿は、いわば一つの宗教団体だったんだ。
巧みに言の葉を操り、人々を魅了し、従えて。
団体はいつしか巨大な組織となって、悪の芽を育ませた。

そして、その事件はとても静かに動き始める。
ゲーチスらプラズマ団の言う事に賛同し、ポケモンを解放する人が現れだした。
まあ、それまでなら、まだいい。
自分のポケモンを逃がす、逃がさないは、個人の自由だ。
しかし、だんだんとその思想はエスカレートしていく。

いつしか、その人々は解放したいポケモンを、プラズマ団へ渡すようになっていった。
これがポケモンの幸せなら、と。
そして、彼らは特に興味をしてもいない俺たちに言った。
ポケモンを解放してあげなさい、と。

俺は気味が悪かった。
そんなの、意味が分からない。
急にパートナーであるポケモン達を、手放さなければいけないなんて。
なんで、赤の他人であるお前らなんかにそんな事を言われなきゃいけないんだ。
それに、自分のポケモンが嫌々俺に従ってるだなんて、思わなかった。
……思わないように、してただけかもしれねぇけど。

俺だけじゃなく、その思想に反対するトレーナーは沢山いた。
解放とやらに反対すると、プラズマ団は決まってこう言い放った。
口で分からないなら、力ずくで。

流石にここまで来ると、イッシュ全体を巻き込む大事件だ。
後で分かったことだが、解放してほしいと人々が自主的に渡していたポケモン達は、皆プラズマ団にこき使われていたらしい。
全く、ろくでもない奴らだ。
結局、彼らは古代の王のものであったと言い伝えられるポケモン、ゼクロムを捕まえようとしたところを取り押さえられたらしい。

そういえば、その事件を抑えた主となる人物は、俺と大して歳の離れていない、少年少女たちだったという。
嘘か真か、真相は分かんねぇけど。
ま、うわさだ。うわさ。


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