夏の影と陽

 81.

*****

「目が覚めましたか」

どうしても身体が上手く動かなくて、仕方なく手元にあったナースコールを押してやって来たのは、ジョーイさんでもなくタブンネでもなく、見ず知らずの優男だった。

「今、僕の主人はジョーイさんと面談中です。すぐに終わるはずですから、もう少し待っていましょうね」

そう言って、ベッド横の椅子に座ってにっこりと微笑む男。
赤いメッシュが効いた、触角みたいな髪がなびく。
なんだそれ。
なんで、お前の主人がジョーイさんと話してる事を、俺が知らなきゃいけねぇんだ。

「……混乱なさっていると思うので、ご説明しておきますね」

うるせえ。
そう言おうとしたけれど、声にならなかった。
喉が、からからだ。

「ここはポケモンセンターの、入院用の治療室です。凄いですね。僕は初めて入りました」

そうかよ。
良かったな、俺も初めてだ。

「僕の主人は昨晩、弱っていた君を保護しました」

こつ、こつ。
触角男が、椅子から立ち上がり窓側へ移動する。
……どういうことだ?
外から差し込む光が、やけに眩しい。

「君のその姿からは全く想像出来ませんが、君はあの時に出会ったハッサムですね」

そう言って、くるりとこちらを振り向く。
逆光で、顔も表情もよく分からない。
ついでに言うと、こいつの言ってることもさっぱり分からない。
なんだよ、ハッサムって。

「今、僕の主人がジョーイさんと共に、君のご主人を探しています。確か、ご主人のお名前はミツキさんでしたね」

……ちょっと待て。
なんでお前が、ミツキのことを?

「おや、まだ僕のことが分かりませんか?」

困った様に笑って、ベッドの横まで近付いて来る。
なんかこいつの笑った顔、嫌だな。

「僕は五番道路で君のバトルの相手をしました、ケンホロウの御風ですよ。……ハッサムに化けていた、ゾロアークさん」


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