夏の影と陽
84.*****
陽が何かから私を遠ざけようとしていることは、前々から気付いていた。
そう伝えると、ベッドの上に座る陽は驚いた様子でこちらを見返した。
ばかね。
気付かない訳、ないじゃない。
あれから、丸一日が経った。
病室の外からは、暖かい昼下がりの太陽が顔を覗かせる。
軽い抗生剤と栄養剤を投与してもらった陽は、すっかり元気になっていた。
安心した、と陽に伝えると、本人は居心地が悪そうに目を逸らせた。
なんなのよ……もう。
「陽が言いにくいことだったら、私、知らなくてもいいと思ってるわ」
「え……」
「無理に聞き出そうなんて、考えてないもの」
これは本心だからね。
そう言って、念を押す。
こんなにも近くにいるのに、大事なことを隠されているというのは、少し、寂しい気もする。
でも、それでも、いい。
私が知らなくてもいいことだと陽が判断するなら、きっとそれが正しい。
全てを知っている人が何かをひた隠し続けるということは、凄く大変なことなのだ。
私だって、それぐらいのことは知っている。
だから、私は何も訊かなかった。
訊こうとしてこなかった。
でも、でもね。
「陽が危ない目に遭っているのに黙っていられるほど、私は出来た人間じゃないわ」
これじゃあまるで、何も知らない、お城の中のお姫様だ。
おとぎ話に出てくる様な高い塀に囲まれた、安全で、綺麗なお城。
私は悠々自適に、優雅に暮らしている。
塀の外で敵と戦い、ぼろぼろになった兵士たちのことなんて、気にも留めない。
それでも、城の兵士は懸命に闘う。
それが、お姫様の幸せならと。
それが、自分たちの幸せなのだと。
けれど。
prev / next
[ back ]