夏の影と陽

 86.

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ポケモン達だけが住む、人間の知らない場所がある。
いや、人間だけじゃない。
御風も知らなかったのだから、本当にごく一部のポケモンしか知らない世界が、この世には存在するらしい。
あのゾロアークは、その世界から逃げてきた、罪人だという。

罪人って、一体。
どうしてそんな奴が、こんなところに。
あんな、女の子と一緒に。

疑問符はたくさん出てきたが、俺は訊けなかった。
多分、御風も同じだったんだろう。
真相を知っているなら、御風は俺に伝えているはずだから。

「彼は、追手から逃げていると言っていました。何度も何度も、その姿を変えて」

そんな中、あいつは…陽は、ミツキと出会った。
驚いたことに、陽はミツキを自分のトレーナーにするために、わざと自分から彼女に近付いたのだという。

「その、ポケモンだけの世界に住む者は皆、あまり人間を好ましく思っていないそうです。だから」

「だからって、あの子を、ミツキを目眩ませに使ったって言うのかよ。流石にトレーナーの…人間の手持ちポケモンになるなんて、あり得ねぇだろう、って」

それはつまり、あれだ。
ミツキは追手から逃れるための、カモフラージュ。

……なんてこった。
俺は、そんな事を本人に伝える様、陽を説得しちまったのか。
手で顔を覆って唸る俺に、御風は静かに、こう呟いた。

「言うか言わないかは、彼次第ですよ」

確かに、俺たちは彼に説得だけはしたものの、本人が口をつぐんでしまえば、それまでなのだ。
俺たちからミツキに伝えてやってもいいが、それはなんか、違う気がする。
でも、どうしてだろう。
あいつなら、もう全部、話してしまう気がする。

きっとあいつは……陽は、後悔している。
ミツキを、自分が後に好きになってしまう女の子を、利用してしまったことを。

そしてその重ねた罪の戒めを、今、自らに受けさせている。
きっかけは、……俺たちが作ってしまった。

はあ、まったく。
なんて奴に出会っちまったんだ、俺は。
……まあ、あれだ。
もしミツキに愛想付かされて捨てられて来たら、ちょっとつついて、慰めてやってもいいかな。

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