やさしい人たちに出会いました

 4

そうしているうちに、玄関から凄い音がした。続いて複数の荒い足音がし、リビングのドアが勢いよく開かれ。
「うわーラクーっっ!!ごめんなぁー!!」
「っぉわあ痛たたたた!」
「わざとじゃないけどほんとにごめんーっっ!!おれがバカだからーっっ!!」
「ひぅ・・・っぐ、が、ちょ、ぎっ、ギブギブ、ギブッ・・・!」
先頭を突っ走ってきたソウが、そのままダイレクトにラクにアタック。ついでに感極まって、両腕でぎりぎり締め付けるものだから、細身のラクはダウン寸前の状態に。
 後に続いた面々が慌てて引き離すと、再びぐったりしたラクが、「気絶するとこだった・・・」とリアルな発言をした。当然、ソウは怒られコースに。しかも今回は、世話焼きのリョクだけでなく、ハクまで参加の説教フルコース。
 その様子を呆れた目で眺めていたヒナは、場の終息を見届けてからミツキたちに向き直った。・・・中途半端に視線を反らすと、時折流れ弾が飛んでくるので、どうしても騒いでいる最中には目が離せない。
「ごめんね、うち、いつもこうなの。小学校みたいでしょ?」
「あ、ううん、大丈夫。にぎやかで新鮮だなあって思ってただけだから」
私たちは2人だけだから物珍しくて、とミツキは答え、パートナーと目を合わせて微笑み合った。彼らは確かに騒々しいが、たまにはこういう大勢も楽しいものだ。


「さて・・・それじゃあ並んで自己紹介ね」
説教の終わりを見計らって、ヒナは言った。その声に応じて、ぞろぞろとメンバーが一列に並ぶ。
「ヒイロだ。種族はバシャーモ」
「俺はハク。アブソル」
「私はリョクといいます。種族はサーナイトですが、性別は男なのでご了承ください」
「おれソウっ!レントラー!なあ陽ってなんなんだ?よく分かんねーけどすごく強そうだよな!?なっ、バトルし、痛っ!」
「ごめんソウちょっと待ってくれる?・・・あの、僕はシノ。クロバットだよ」
流れ作業のように、横一列で順番に自己紹介をしていく様は、なるほどこれも小学校チックだ。あと、順番でもめないところからみて、どうやらこれはデフォルトの並びらしい。おそらくは『名前順』ならぬ『仲間入り順』。
「私はミツキ。今晩はよろしくね」
「俺は陽!いい名前だろー?ミツキがくれたんだぜ!」
「ちょっ・・・!」
名乗った直後に陽が堂々と名前を自慢しだしたため、ミツキは慌ててそれを止めにかかる。・・・が。
「はァ?馬鹿言うな、俺の名前の方が凄ぇに決まってんだろ。後に続く連中の名前の方向性は、俺から続いてんだからな!」
大きく一歩前に出て、偉そうに主張するヒイロ。まあ実際、彼の名前を色からとったので、その後のメンバーも色の名前になったのだ。間違ってはいない。
 とはいえ、それについて今更いろいろ言うほど、彼の仲間たちは血気盛んではなかった。・・・いや、若干一名、バトルに関してはケンカっ早いレントラーがいるが、あれはこういう所では妙にほのぼのするタチなので、不思議とヒイロと衝突することはない。
 しいて言うなら・・・。
「あーもーはいはい落ち着いてー。初対面の人といちいち張り合わないようにって、いつも言ってるでしょ、ヒイロ」
ため息を吐いて、ヒナはパートナーを軽く叱った。そう、彼女たちにとって、身内の『のろけ』はスルーすべきものなのだ。そのため、そこに照れは一切ない。
 至極あっさりした対応に、ミツキは思わず感心した。
「ヒナちゃんは大人ね・・・」
「違う違う。人数多いから、いちいち対処してると面倒なのよ。・・・なんでかしら、うちのメンバーみんな、一人残さず身内びいきなのよね・・・」
そういう彼女も身内びいきであり、自覚があるので何とも言えないが。



 そして、各々自由に、話したり遊んだりしている最中。
 ふと時計を見たラクが、「あ、」と声を出した。
「そういや今日のごはんは何にする?」
「ああ・・・多めに作ればそれでいいんじゃない?」
「ん、了ー解」
 その様子があまりにも何気なかったために、にぎやかな場に紛れ、ラクが台所に向かったことは他のだれにも気づかれなかった。


「・・・本当にこれ、全部手作りなの?」
次々にキッチンから運び出される大量の料理を目にして、普段2人分しか用意することのないミツキが目を丸くする。
「当たり前だろ。この量買いに行ったら手が足りないって」
「それにしたってすごい種類ね」
「ん、まあ。ジャンル決めずに適当に作ってみたからなー・・・えーと、面倒だから箸とスプーンだけでいっか・・・」
じゃあこれよろしく、と渡された食器を手にして、ミツキは一同が待つリビングに向かった。
 そこでは相変わらず騒々しいメンバーが、おいしそうな料理たちをテーブルにずらりと並べているところだった。
「さーって・・・これで準備終わりか?」
ミツキに続いて入ってきたラクが、ぐるりと室内を見回す。人数、欠席なし。食器、不足なし。・・・よし。
 「んじゃ、どうぞー」
シェフの一声で、その場はさながら戦場になった。
「シチュー!シチュー!」
「お客さんの分が先ですよ!」
「ヒナ、よそってやる。皿を貸せ」
「ありがとダディ」
「あ、これタコさんウィンナーだ」
「てめっ、俺の皿から取んじゃねえ!!」
「あんたが取り過ぎなのよ!」
「けんかはダメですよ!」
「パエリア!」
「あああっ、貝に殻ごと齧りついちゃダメだってば・・・!」
なんというカオス。・・・この状況で、ヒナが負けていないのが凄い。
 しばらく茫然としていたミツキだったが、隣に座っている陽から「冷めるぞ?」と不思議そうな忠告を受け、慌てて箸を動かし始めた。
「・・・おいしい」
ぽつ、と呟いた言葉に、陽の反対隣に座っていたラクがぱっと顔を輝かせた。
「よかった!でも食後にデザートあるから、その分だけ空けといてな!」
この言葉に反応したのは、ミツキを挟んだ先の陽だった。
「えっ、デザートまであんのかよ!」
「好みが分かんなかったから、ミルクプリンと冷やしぜんざい作った」
「どっちも食う!」
「どっちもどうぞ!」
さて、これは場のノリというものなのか。
 なぜかミツキの背後で、がっ、と熱い握手が交わされた。謎である。



 夕食の後は各自風呂に入り直し(特にヒナ側の面々は、ヒイロの炎で水気を飛ばしていただけなので)、就寝。
 その際、完全に女子にカウントされたラクが女子部屋に引っ張り込まれてしまい、当人はひどく複雑そうな顔をしていたが、「やっぱりラクちゃんって呼んでいい?」と聞かれて開き直っていた。ラクとしては、外側は普通に男なんだけどいいのかな、という思いがあったりするが、中身が普通に女の子過ぎるので、別に嫌とかそういう話ではない。
 ちなみに、自分もあっちで寝る!と騒いだ数名に関しては、ハクとリョクが問答無用で簀巻きにしていた。


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