やさしい人たちに出会いました

 5

翌日は、どうしてもバトルがしたいというソウ(彼は自己鍛錬のため、朝は5時起きでランニングとウォーミングアップをするので、みんなが起きるころにはすでにテンションが高い)のために、まだ誰もいないバトルフィールドを借りてバトルすることになった。

「出発前なのにごめんね?」
「大丈夫。別に急いではいないから。それに、せっかくの出会いじゃない?悔いのないようにしたいわ」
「ふふ、ありがと。・・・ところであの2人は何やってるの?」
「え?」
問われたミツキが振り返ると、そこには一同から少し離れた場所で、何やら真面目に話し込んでいる様子の陽とラクが。・・・時折揃って首を傾げたりしているのが、妙に可愛く見えるのはなんなのだろう。
 といっても、それはあまり長い時間のことではなかった。
 やがて双方納得のいく決着がついたらしく、2人は上機嫌で戻ってきた。
「何話してたの?」
やたら嬉しそうな様子のラクに、ヒナが聞く。
「ん?ああ、極力色んな技見せてって頼んでただけ!」
「はぁ?何よそれ」
「いーからいーから!」
ラクは、不可解そうなヒナの背中を押してバトルフィールドへ。陽も、ミツキの手を取ってその後に続いた。

 ・・・結果的に言えば、バトルは陽の圧勝だった。理由は、陽の希望でトレーナーが指示をせず、ポケモン同士のフリーバトルだったためだ。単純思考のソウは陽の多彩な技で翻弄され、半ば自滅の有り様。残念な限りである。
 しかし負けた本人は至って満足・・・というか、ひどく興奮したらしい。壁に突っ込んでしばらく目を回していた彼は、意識を取り戻すなり、人型に戻った陽に原型のまま飛びかかった。
『すげーすげーすげー!かっけー!くるんって回ったらぱって変わったよな!な!すげーなー!』
押し倒された挙句きらきらした目で見下ろされ、陽は絶句するしかできなかった。そのままぽかーんとソウを見上げる彼を、ヒナ組が慌てて救出にかかる。
 しかし、大興奮冷めやらぬソウは、今度は原型のままヒナの周囲をぐるぐる走り回りだした。
『おれもあれ覚えたいっ!やりたーい!』
「こらっ!無茶言わないの!どう見たって固有系じゃない!」
第一、猪突猛進型のソウがあれを使いこなせるとは思えない。どちらかというと、ああいうジャンルはラクあたりが好きそうだし、得意そうだ。
 と、ここまでヒナが考えた時。
『・・・よし、覚えた!』
不意に、やたら嬉しそうな、明るく弾んだ声がした。それは彼女のの耳には鳴き声として届いたものの、雰囲気で伝わるほど軽やかなもので。珍しいその響きを聞いて、彼女は振り返った。
「ラク・・・?」
訝しげな様子のトレーナーに、きししししっ、とゲンガーらしく笑ってみせてから、ラクはその場できれいにバク宙をして見せた。
 ・・・その途端、場の空気が止まったのは不可抗力である。

「どうよっ!」
ばーん!という効果音を背負いそうな勢いで、見知らぬ姿の少女がそこにいた。
 周囲が全部硬直する中、先に知っていた陽だけが、「おー」となんとも能天気に拍手する。
「・・・えっ、ラクっ!?」
「ん!・・・なー、おかしくない?一応、享年の頃の初代自分なんだけど」
「はああっ!?」
めいっぱい驚いたヒナは、『彼女』の姿を上から下まで何往復も見た。そして思う。
「小っさ・・・!」
「ぶはっ」
あまりに深刻な声色での感想に、傍で聞いていた陽が吹いた。完全に笑い転げる状態になり、目の端に涙まで浮かべている。
 ちなみに、愕然とした様子で呟かれた本人はというと、しばらく黙りこくって瞬きを繰り返した後、制服と思わしきセーラー服のスカートをぎゅっと握って、「そういえばそうだった・・・」と呻いた。イリュージョンとはいえ見事に細くなった肩が、小刻みにぷるぷる震えているのは、どうも悔しがっているかららしい。
「くうっ・・・せめてあと5cmあれば・・・!」
地団駄を踏みそうな言いようである。どうやら心底本気のセリフのようだ。
 これに対し、ようやく驚きから抜けたヒナが、相変わらずじろじろと視線を向けながら言う。
「元に戻ればヒイロサイズでしょ・・・っていうか、あんた本当にチートね。どうやって覚えたのよ」
「見てたら覚えるよ俺は。特性とかも写せるし。ただ、これやる時は原型じゃないとダメなんだよなー」
「だから珍しく戻ってたのね」
「うん。・・・前は極力隠してたけど、今なら役に立ちそうだし。解禁?」
「いいけど大っぴらにはしないでよね・・・」
「するわけないじゃん!」
・・・ここで、怖いこと言うなあ!と大げさに身を引いて見せたのは、恐らく当人なりの誤魔化しだろう。微妙に硬い声色が混じったのに、数名が気づいて顔をしかめる。そして気づかれたと気づいたラクが笑って流そうとするが、それでうやむやにされるようなヒナではなかった。
 「あんたまた嫌なこと連想したでしょ」
半眼になった彼女に指摘され、ラクは一瞬固まった後にそそくさとミツキの影の中に逃亡。
 ・・・驚いたのは、隠れ蓑にされた方である。
「こら!出てきなさい!」
「いやでもほら・・・ね?」
「何よ!大体、いつも気持ちを隠すなって言ってるでしょ!なんで自分に不利なことばっかり隠したがるのよ!」
「だ、だって人に頼るとか俺苦手、あいたっ、痛、痛いっ」
自分の影と、現実の人が会話している違和感もさることながら、現実の人が自分の影を叩くと、影の中から泣き言が聞こえるという状況。まだまだカルチャーショックを多く抱える彼女にしてみれば、結構ショッキングな現象だった。これがもし知らないポケモンで、夜、いつの間にか・・・なんて事になったら、もうそれは普通にホラーである。
 「・・・ねえ陽」
「なんだ?」
「こういう・・・影の中に潜むっていうのは、結構あることなの・・・?」
「ああ、ゴーストポケモンはな」
別に悪さしないんなら放っとけばいいんじゃねーの、などとけろっと言われても、不気味なものは不気味だ。
 とはいえ、ここで「出て行ってほいんですけど」とは言えないあたりが、彼女のお人よし具合の表れだろう。


 結局、騒ぎは20分ほど続いた。
 最終的にはラクが折れ、そろりと影から出てきてヒナに原型土下座で謝った。いや、あまりに丸すぎる体型のため、本当のところは分からないが、そういう風に見えたという話。そして謝られたトレーナーは仁王立ちで、「次やったら足蹴にするから」などと宣言。でもまあ、たぶんきっと絶対それはやらない。



 そして、いったん部屋に戻ると、荷物をまとめ、2組のグループは出発の準備を終えた。
 後は、ポケモンセンターを出発するだけ。

「ミツキちゃん、陽くん、最後まで付き合ってくれてありがとう。また縁があったら会いましょ」
「ええ。・・・またね、ヒナちゃん、ラクちゃん」
「ん!たぶん、また!」
「またなー!」
にこやかに笑い合うトレーナーの少女2人と、擬人化してぶんぶん手を振る手持ちたち。ヒナの他の手持ちたちも、ボールをがたがた揺らしてそれに応えていた。



 とまあ、彼らの別れはなんともあっさりとしていたが、それは、なんとなーく再会の予感があったから・・・かもしれない。


prev / next

[ back ]