俺は今、引越し屋で働いている。
少し前までは日雇いの、力や体力が必要な仕事を中心に働いて給料を貰っていた。
道路工事や建設現場、工場の荷物運び、そして引越し屋などなど……。一度、とび職とかいう高所作業の仕事をしたときは、美月にすごい剣幕で反対されたからそれ以来やってない。危険な仕事だと言われて、それだったら他の仕事だって大変だぞ、って言ったら、そんなことを言っているからまだ駄目なのだと念を押された。どういうことだかさっぱりだ。
そんなとき俺に声を掛けてくれたのが、今の引越し屋の直属の上司に当たる人だ。上司って言っても、なんかそこらへんにいる気のいいおっちゃん、ってかんじの人だ。現に、俺は未だにその上司のことを「おっちゃん」と呼んでいる。
おっちゃんは俺が引越し屋のアルバイトをしたときに、正社員になるための採用試験を受けないかと誘ってくれた人だ。そのときの俺は、訳あって採用試験を受けられなかったんだけど、今はこうしておっちゃんと共に働けている。まあ、まだ見習い扱いだけど。
「あ〜〜、今日も暑いなあ」
おっちゃんが呟く。
トラック内はクーラーをつけてるけどそれでも汗ばむし、何より外の景色が酷い。太陽の熱で、アスファルトがギラギラに照って焼かれている。
今日は二件。一件は一人暮らしの人、もう一件は若いカップルの引越し作業だった。
夏のこの時期は、意外と引越しをする人が多い。
夏の休暇があるからだの、ボーナスを貰った後だからだの、色々と理由があるらしい。おっちゃんや美月が教えてくれた。わざわざこのクソ暑い時期を選ばなくても……と、俺は思う。
「一年後には、お前も一人前と見なされるからな。ちゃんと見て覚えろよ」
トラックの中で、もはや口癖になっているおっちゃんの言葉を聞きながら、俺はぼーっとしながら焼かれるアスファルトを見た。
「一年後か……」
一年後なんて、はるか遠い未来のように思える。
何せ俺には、およそ一年前からの記憶しかないのだから。
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