第二章

 16.

***

立食会の会場、カクタス号の中央付近に在る大ホールは、混乱の最中にあった。
先刻の悲鳴の後、ホール内で意識を失っていく者が続出しているのだ。
ゆのとミツキも突然の事態に、驚きを隠せないでいた。二人共座っていた椅子から離れ、唖然とした面持ちで立ち尽くしている。
会場のあちこちでは、今も声が上がっていた。

「おい、こっちでも人が倒れたぞ!」

「大丈夫!? 返事をして!」

「何だ、どうなってるんだ!?」

「ねえ、こっちの人もよ!! ゆすっても目を覚まさないの!!」

混乱の最中、何故か船内のスタッフは誰一人として救援に来ない。数人の給仕があわあわとトレイをもったまま、動けないでいるだけだった。
先刻ステージへ戻って行ったカイゼル髭の男は、いつの間にか居なくなっていた。

「あ……」

「ゆのちゃん!?」

突然、ミツキの視界から小さな頭が一つ消えた。ゆのの身体が、ぐらりとバランスを崩したのである。
ミツキが咄嗟にゆのの肩を持ち、支えようとするが何故か力が入らない。

「え、何で……?」

そのままゆのの身体と共にずるずると床にしゃがみ込み、必死にバランスを取る。
ゆのの様子を伺うと、少しだけ顔色が悪いが、表情も呼吸も今は穏やかである。

「何が起こってるの……?」

混乱は更なる混乱を招き、気を失う人は続出していた。
またミツキと同じ様に、未だ気は保っているものの、思う様に力が入らないという者も大勢居るようだ。

「陽たち、大丈夫かしら……」

思わず、この場に居ない仲間達の身を案じる。
こんなことになるのであれば、比較的安全であろう、簡易ポケモンセンターに彼等を預けておけば良かった、と。
憂慮している間、ミツキは自分の意識がどんどん遠のいていくのが分かった。

「あ……、だめ……」

徐々に重力に逆らえなくなり、ミツキはゆるゆると床に倒れた。
ゆのが頭を強打しないよう、腕で支えてやるのが精一杯だった。
ゆのを抱き締める様に倒れたミツキは意識が遠のく中、他のトレーナー達も次々と意識を失い、倒れていくのが分かった。
中には突然の出来事に混乱して絶叫する者も居たが、やがてそれもうめき声に変わった。
意識が途切れそうになる中で、ミツキを始めとしたトレーナー達の、誰もが同じことを考えた。
どうしてこんなことになったのだ、と。
しかし思考は巡らず、ただただ瞼の重みだけが痛烈にのしかかり、それが唯一自身に与えられた感覚だった。
近くで何者かの足音が聞こえたが、何が起きているのか、ミツキには分からなかった。
意識は、途切れた。

***


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