第一章
6.今大会のバトルトーナメントのルールでは、基本的にポケモンの交代は認められていない。
チルットのコットンガードで身動きが取れないまま、ほぼ密着した状態でほろびのうた聴いてしまったウォーグル。
ミツキは彼を交代させる訳にもいかず、結局、ウォーグルはそのまま戦闘不能となってしまった。
無論ほろびのうたを歌ったチルット自身も、同様である。
そして両者の次なるポケモンは、互いに同じポケモン。ジュペッタであった。
「黎明、不意打ち狙ってくよ〜!」
「はあ〜い!」
抜けた声で返答する、ゆのの手持ちポケモンであるジュペッタ。名前を、黎明という。
飄々とした雰囲気とは裏腹に、彼の動きはとても素早く、フィールドの中央へと宙を駆け抜けた途端、すぐにその姿は消えてしまった。
さあ、どこから来る。
会場が一気に静まり返り、彼を警戒する。
「智秋くん、落ち着いて……しっぺ返し、ね」
「うん、わかったよ」
ゆっくりと頷く、ミツキのジュペッタ、智秋。
甲板を一瞬の風が吹き抜けた、その時だった。
「聞っこえてるよお〜!!」
背後から姿を現し、突如として襲い掛かる鋭い爪の刃。
その光景を目の当たりにしたミツキは何が起こったのか分からず、思わず息をのんだ。
しかし、先にフィールドに転げ倒れたのは智秋ではなく、攻撃を仕掛けたはずの、黎明であった。
「……あれぇ?」
黎明自身、訳が分からない、といった様子で、地面で擦り剥いた両手を見やる。
未だその下で蠢く影に、彼自身、気付いていなかった。
いち早くそれに気付いたゆのが、黎明へと支持を出す。
「黎明、影打ち!」
「おそいよ」
幼い声と共に、黎明の身体の下から這い上がる、無数の影の手。
その手は黎明をぐるぐると縛り上げ、彼の身体を天高く掲げると、ぴたりとその動きを止めた。
「シャドーボール」
黎明自身の影から発せられた、強烈な黒い一派。
影に縛られ身動きの取れないまま、黎明はシャドーボールの直撃を喰らう。
黎明の影から発せられた一撃は、終えると長い触手の手はするすると戻していき、小さなジュペッタはぺたりとフィールド上に落下した。
落下した黎明の影の隙間から出てきたのは、もう一匹のジュペッタ。智秋である。
「まけずぎらいなんだよね。ぼく」
そう言って、倒れた黎明を見やる智秋。
智秋がミツキの指示も無く独断で行ったのは、ゴーストダイブ。
勢いよく飛び出した黎明の影と自分の影が合わさる瞬間を狙い、相手の影へと身を潜めたのだった。
「さて、つぎのあいては………………あれ?」
動かない、身体。
サイコキネシスだ――――そう思ったときには、もう、遅かった。
「負けず嫌いなのはぁ〜〜〜〜、」
むくりと起き上がる、もう一匹の、ジュペッタ。
「ボクも一緒だよお!!!!」
朱い眼を不気味に光らせる彼は、とても楽しそうに笑っていた
とても、とても楽しそうに笑っていた。
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