第一章
7.騙し騙されの攻防戦はやがてタイムオーバーとなり、両者引き分けとなってそのバトルは終了した。
決着がつかず二匹のジュペッタは随分とぐずついたが、互いのトレーナーと、レフェリーのニョロボンから怒りの鉄槌を受け、最終的には両者とも大人しくボールへと戻って行った。
次はいよいよ、互いに三匹目、最後のポケモンである。
この戦いで、第五戦目出場が決定するのだ。
「頑張って、陽!」
「いけー、新(あらた)ー!」
フィールドに姿を現せたのは、はさみポケモンのハッサムと、せいれいポケモンのフライゴン。
新と呼ばれたフライゴンは、相手のハッサムを見るなり、楽しそうに笑って言った。
「ああー、ハッサムだったのかあ! ぜんっぜん分かんなかった!」
「へ?」
陽は相手が何を言っているのか分からず首を傾げるが、相手はなんでもないよー、と笑いながら目を逸らした。
やがてレフェリーの合図が掛かり、バトル開始となった。
先手に出たのは、ハッサムの方だった。
「陽、辻斬り!」
「まかせろ!」
そう言い放った途端、ハッサムはフライゴンへ向かって一直線に走り出し、間合いを詰める。
迎え撃つフライゴンは動揺もせず、相手を見据えて笑った。
「真っ向から来るなんて、度胸あるじゃん!」
「新、超音波!」
「まっかせてー!」
ゆのの指示に応えたフライゴンは四つん這いになり、ひし形の大きな羽を細かく震わせて空気を揺らした。
人間の耳には聞こえない、しかし強烈な音波が、ハッサムの耳まで届く。
「うらぁ!!」
それでもかなりのスピードでフライゴンに接近していたハッサムの勢いは止められず、フライゴンの身体には深い傷がつけられた。
更にハッサムは振り返りざまにもう一撃、その大きなハサミを振り下ろした。
「あれ?」
しかしその軌道は空を裂き、ハッサムの身体をくらりとよろめかせる。
先程発せられた、超音波の効果であった。
その隙を、ゆのも新も、見逃しはしなかった。
「新、火炎放射!!」
ハッサムへ向け放たれた、強烈な炎の一撃。
灼熱の炎がハッサムの身体を覆い、焼き尽くす。
虫と鋼タイプを持つハッサムへこのタイプの技を使ってしまえば、その威力は数倍にも跳ね上がる。
この攻撃で必ず勝つのだという意思を込めた、ゆのの強気の一手であった。
「ふふんっ! ラクショーだったかな!」
黒煙が舞い上がる中で、新は胸を張って笑った。
しかし、
「陽、ナイトバースト!」
「え? あいたー!?」
ミツキの掛け声の直後に飛んできた、黒い衝撃波。
それを直に額に受け、フライゴンは思わずのけ反った。
フライゴンが態勢を整えると、そこには黒煙に包まれながらも赤黒い鬣をなびかせた、一匹のポケモンが佇んでいた。
「だぁーれがラクショーだってー!?」
「あ、あれー!?」
フライゴンが、目を見開いて驚く。
そこに立っていたのは先程まで戦っていたハッサムではなく、一匹のゾロアークだった。
「ハッサムじゃなかったんだ! すごぉーい!」
「もうおせーよ!」
起き上がろうとするフライゴンへ、ぐん、と間合いを詰める。
ゾロアークはその真紅の爪を光らせ、大きく振り被った。
「新、まもる!」
ゆのの声の直後に響いた、きぃん、という高い音。
そして聞こえたのは他でもない、ゾロアークの苦悶に満ちた悲鳴。
「いっっってぇ!!」
振り被ったゾロアークの腕に、フライゴンは深くかぶりついたのだった。
威力は低いが衝撃が大きく、ゾロアークは思わずのけ反る。
「新、チャンス! 流星群!」
「陽、影分身!!」
いくつもの極大の光の弾が、轟音をあげてゾロアークへ向かい降り注ぐ。
影分身をしたゾロアークの残像は、光と共に次々と姿を消し、やがて粉塵と残響だけの世界が、視界に広がった。その時だった。
「うわあっ」
突然フライゴンの背中を襲う、衝撃と痛み。
反動でよろけると更なる攻撃が彼を襲い、フライゴンは数メートル程その場から吹き飛ばされた。
フライゴンの背後をとったゾロアークの、だまし討ちだった。
「こっちもやられてばっかじゃ、楽しくねぇんだよ!」
そう吠えるゾロアークに、フライゴンは間合いをとる。
「びびってんじゃねぇぞ!」
「びびってないよ! …………来い!!」
フライゴンの気合を込めた声に、ゾロアークは思わず口角を上げた。
「上等だ!!」
フライゴンへ向かい、突進していくゾロアーク。
その様子に、フライゴンのトレーナー、ゆのは、小さくにやりと笑った。
「新、ドラゴンテール」
「おーけー!」
フライゴンが、身を構える。
「……あ」
ミツキがそのフライゴンの構え方に、しまった、と思った時には、もう遅かった。
「とんでけえぇーーーー!!」
フライゴンは巨大な尻尾を大きく振り被り、その尾はうなりをあげながら、宙に弧を描いた。
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