諦観の世に去らば
あの喰種が言う通りになった。
あの後オークションは始り、私の前のコンテナが次々と開けられ、中の人間が出されていくのが分かった。一人出ていくたび、会場は盛り上がりを見せる。しかし、ある時大きな盛り上がりがあった後、それは悲鳴と変わった。
「白鳩だ!!」
「CCGが仕掛けてきやがった!」
コンテナの外で喰種達が逃げ惑うのを感じた。今なら、私だって逃げれる。でも、あの喰種が言ったことが私の脳裏をよぎっていた。
「喰種の世界に…?」
「そう、興味ない?」
あの喰種は私に人間の世界に戻らず、喰種の世界に来ないかと言ってきたのだ。
「なんで、そんな…」
「大切な人が喰種に殺されたから、喰種は嫌いかな?」
――何で知ってるの?
喰種は「見れば分かる」と言った。
「そんな人達はみんな、同じような眼をしてるからね」
喰種はこっちの世界に興味があるなら、捜査官達が来たとしてもこのコンテナに残っていてほしいと言って、私の前から姿を消した。
両親は5年前に喰種に襲われて死んだ。私だけ学校に行っていたために、ひとり生き残った。
「……」
――わたし、は……?
気づくと周りは静まり返っていた。
どのくらいの時間が経ったのだろう。すると、コンテナが開いてあの喰種が私にヒラヒラと手を振った。
「やぁ、残っててくれたんだ」
私は喰種の差し出した手に引かれてコンテナを出た。周りは喰種やら捜査官らで血の海と化していた。
"あの時"の光景と、そっくり。
「……私の親、所謂毒親だった」
なんでこんな事を話しているんだろう。
親が死んだ時、安心したのを覚えている。もう私の人生を決め付けられたりしない、もうあの息苦しさを感じないで済む。
自由に生きていけるんだと、思った。
「喰種は、……別に恨んでないの」
「へぇ」
「そっちの世界は面白いの?」
「これから面白いことがドンドン起きるよ」
自分の生きていた世界を離れるなんて、こんな経験はなかなかできない。もう少しで死にかけたというのに、こんな考え方を自分がしているなんて――。
「お嬢さん名前は?」
「……ユヅキ、仁科ユヅキ」
「ユヅキさん、ね。僕はウタ」
――ウタ。
この喰種からはあまり危険な感じはしない。
「ようこそ、喰種の世界へ」
To be continued…
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