冷淡に優雅に弄ぶ


あれから、私はウタさんの元に住むことになった。今まで行こうともしなかった危険と言われる4区に行き、そして喰種がどうやって生き延びているのか知った。

「マスクしてないと面が白鳩に割れちゃうでしょ」

――確かに。
ウタさんの作るマスクはどれも美しかった。これは喰種じゃなくても欲しいかも。

「今度、ユヅキさんにも作ってあげる」
「本当?」

ウタさんは――。
見た目は少し怖かったけれど、すごく穏やかな喰種だった。喰種はみんな飢えているバケモノみたいに教えられてきたけれど、全然違うじゃないか。

私が今まで習ってきた事って、何だったんだろう。数週間だけでも喰種の世界を見るようになってから、私の世界は広がった。

「あ、今日お客さんくるから」
「お客さんって……?」
「大丈夫、怖くはないよ」

ウタさんが私に手招きをした。彼は私を鏡の前に立たせて、紙袋から服を次々と出しては私に合わせた。

「うーん、コレが良いな」
「何なのウタさん?」
「綺麗にしていた方が、今日来る人達は喜ぶから。コレに着替えておいで」
「う、うん」

ウタさんに渡されたのは黒いワンピース。
シャープだけど、ふんわり広がったスカートが可愛いらしい。胸にはコサージュが付いていた。

一体、誰が来るんだろう。
着替えてウタさんの前に立つと、首にチョーカーを付けてくれて「キレイだね」と言ってくれた。

「はーい、お邪魔しまーす」

お店のドアが開いて、2人が入ってきた。
女の子と、……見てすぐに分かったけれどオネェの人だろう。

「いらっしゃい」
「へぇ、その子がオークションの時の?」

2人は私をジロジロ見てくる。
人間と変わりないけど、やっぱりこの人達も喰種なんだ。

「めっちゃ美味しそうなニオイするなぁ〜」
「ほんとねぇ、造形も良いし…」

どうやら私は品定めされているらしい。
ウタさんにも言われた。私は妙に喰種にとっては良いニオイがするのだそうだ。

ウタさんにコーヒーを頼まれてキッチンに行くと、あのオネェの――ニコさんという方が入ってきた。

「アンタも物好きよねぇ」
「……喰種の世界に来たのがですか?」
「そうねぇ。でも、彼も物好き」
「……え?」

ニコさんは含み笑いをして、私に耳打ちする。

「こーんなに美味しそうな子置いとくなんてネェ?」

――アンタ、そのうち喰べられるわよ?



To be continued…



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