今宵よ月は隠れ夜は黙せ
今日はクリスマスイブだ。
ウタさんに出掛けようと誘ってきて、私達は街に出た。
街はすっかりクリスマス一色。
まさか、喰種の隣を普通に歩くなんて夢にも思わなかった。
今のわたしは、
違う意味で胸が高鳴っている。
「ここだよ、ユヅキさん」
ウタさんに連れてこられたのは喫茶店だった。看板には「:re」とある。中に入ると「ウタさん」と声がして、綺麗な店員さんが出迎えてくれた。
「ウタさん、その子が……?」
どうやら私は有名人らしい。私は小さく会釈すると、店員さんはニコリと笑って「いらっしゃいませ」と通してくれた。
「美味しい…!」
出されたコーヒーは薫りも良いし、とても美味しかった。仏頂面のお兄さんが淹れてくれたのだが、そのお兄さんに暫し凝視された。
「ごめんね、四方さんに見られて怖いでしょ」
「う、ううん大丈夫…!」
トーカさんと四方さんは昔からウタさんの知り合いなんだそうだ。ウタさんと四方さんは話があるとかで少し離れた場所で何か話している。
「しかし、ユヅキさんスゴイね」
「何が?」
「ニオイだよ、今までよく喰種が寄ってこなかったね」
――そんなにスゴイのかな。
当たり前だけど自分には分かんないや。
「ウタさんも……だから私を置いてるのかな」
ポツリと口から出てしまった。
するとトーカさんは私の顔を覗き込んで「好きなの?」と聞いてきた。顔が熱くなるのを感じる。
「ウタさん、ユヅキさんのこと話すとき楽しそうだけどね」
「え?」
「不謹慎かもしれないけど、少なくともウタさんに食べられることはないと思うよ」
トーカさんの言葉にどこか安堵した。
:reから出ると、もうすっかり夜は耽っていた。冷たい風が、火照っている私には心地良く感じる。
「そうだ、ユヅキさんにクリスマスプレゼント」
ウタさんはポケットから可愛らしい箱を出した。開けると中には綺麗な紅色のイヤリング。「僕が作ったんだよ」とウタさんは私にイヤリングを付けてくれた。
「ありがとうウタさん…!」
プレゼントに嬉しがっていたが、私は重大なことを思いつく。
「あ、私……何も用意してない、どうしよう」
ウタさんは別にいいよ、と言ってくれたけれどそうもいかない。なにより私もウタさんにプレゼントがしたい。
「じゃあ――」
ウタさんの手が私の頬に触れる。
一瞬のことで、何をされたのか分からなかった。ウタさんの顔が私の目の前にあって、そして、すぐに離れた。
「お礼はコレで」
唇に指を当てる。
――熱い。熱い。
唇から全身が熱くなっていくのを感じた。
To br continued…
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