撃ち抜かれた甘い鼓動
――ウタさんにキスをされた。
それをきちんと認識するのにしばらく時間が掛かった。
あれは、ただのお礼だ。
彼に深い意味なんてなかったんだ。
あれから別にウタさんとは何もない。相変わらず優しくて、私を喰べようともしない。彼の眼さえ嚇眼じゃなければ喰種ということを忘れそうなくらいだ。
いつも通り、他愛のない話ができるのが幸せだった。
そう自分に言い聞かせているのに、彼と話すといつも心臓がうるさく鼓動した。
そんなある日、お店のドアをノックする音が店に響いた。
入ってきたのは優しそうな青年だった。そして彼は珍しく人間のお客さんだと思う。
「マスクをオーダーメイドすることって出来ますか?」
彼はウタさんと二言三言やりとりをして、最後にそんなことを言った。
私は彼がウタさんの嚇眼について触れたら内心焦っていた。でも、ウタさんはサラリとかわして、青年もまたサラリとそれを受け止める。ウタさんが了承すると彼はまた来ますと言って席を立った。
「またお待ちしてますね」
私が最後にそう言うと彼は私を見て、少し驚いた顔をした。私が首を傾げていると彼は言った。
「いや、すみません。恋人さんなんですか?」
「えっ、いえ、そんな…!」
慌てて否定してしまった。
青年はふふっと優しく笑う。私はやっぱり不安になって彼に尋ねてしまった。
「あの、ウタさんの眼気にならないんですか?」
「え?あー…まぁね。タトゥーって言われちゃあ、何とも言えませんよ」
一応安心して良いんだろうか。
ウタさんが捕まったりなんかしたら、本当に私は何処へ行けばいいんだ。
「あなたこそ、人間の方がいらっしゃったから驚きましたよ」
――人間の方?
青年は佐々木ハイセと名を告げてその日は帰って行った。何だか不思議な人に感じたが、ウタさんはどこか嬉しそうにしていたから私はあまり気にならなくなっていった。
後日、ハイセさんが喰種捜査官だと私は知る事となる。
To be continued…
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