弱い俺はなまえさんの発言を掘り下げて聞く事が出来ず、そのまま俺たちはいくつか言葉を交わしながら約束通り俺の家に向かった。場地さんの家にはよく行くらしいから、俺の家に着いた時すっげー驚いていた。
「まって…!ペケちゃんが想像以上に可愛すぎて胸が痛い…!」
そう言って本当に胸を抑えるなまえさん。いや、あんたも大概やぞ。猫好きなだけあって触り方や接し方は抜群だった。そのおかげかペケも馴染むのが早く、対面して20分経たないうちになまえさんに撫で回されていた。
「ペケも珍しく懐いてるんで、なまえさんの事気に入ってるのかも」
「うわ〜!嬉しい!ペケちゃんうち来ちゃう〜?」
よほど猫好きなのか、ペケに会ってからずーっと頬が緩んでいる。俺への警戒心が無いのは嬉しい事だけど、あまりにも無防備すぎる。
「なまえさんって、8月3日空いてますか?武蔵祭りあるんすけど、よかったら行きませんか?」
「あー、ごめん…武蔵祭りはクラスの友達と行く約束しちゃった。あ、ほらいつも千冬くんに話し掛けるあの子達」
「仲良しの先輩達っすよね。そっかー、一足遅かったっすね。楽しんできてください」
元々武蔵祭りは抗争予定だったからなまえさんを誘えなかったけど、マイキーくんが愛美愛主の総長をぶっ飛ばしたお陰でその日が空いた。パーちんくんの逮捕で一波乱はあったけど。
「浴衣着るんすか?」
「うん、せっかくだし着ていこうと思ってるよ」
なまえさんの着物姿…想像するだけでニヤニヤしそうになるのを抑えて咳払いをする。
「うわ、なまえさんの浴衣姿見たかった」
「大した事ないよ?」
「大したことしかないっスよ。写真送ってくださいね」
「えー、恥ずかしいよ」
「じゃあお友達の皆さんにお願いしようかな」
俺が頼めばきっとお友達軍団の方たちはたくさん送ってくれるはず。そしてなまえさんもそれを分かってる。
「わ、わかった!送るから!あの子達には頼まないでよ!」
「最低3枚はお願いしますね」
「え…1枚じゃ…」
「え?5枚っスか?」
「3枚でお願いします」
生で見れない分写真は送ってもらうことにした。本当は直接見たいけど仕方ない。
ペケは相変わらずなまえさんに撫で回されてご満悦そうな表情をしていた。ペケを見て微笑むなまえさんを俺は凝視している。こうしてなまえさんの顔を見ると、本当に整っているなと改めて実感する。良くも悪くも目立つ容姿だから、有りもしない噂が出回るの仕方ない事なのかもしれねぇなと思った。
「なまえさんって、今日みたいによく呼び出されるんすか?」
「いや?よくってほどでもないよ。月に2、3回とか」
「十分多いっスよ」
「でも今日の呼び出しは久しぶりだったよ」
なまえさんを想ってる男は先輩も後輩も含めてかなりの数いるんだろうけど、その中でもその想いを告げる勇者は一握り。きっと大半は"憧れの人"で諦めてるんだと思う。
そして最近はなまえさんと三ツ谷くんが放課後に会う時、三ツ谷くんはわざわざうちの学校の校門で待ち合わせをしてる。その結果、『みょうじなまえは他校の彼氏ができた』と噂が立ってるらしい。三ツ谷くんの牽制がまさかここまで成果を出すとは思いもしなかった。
「三ツ谷くんと噂になってますよね」
「あー、なんかそうみたいだね」
なまえさんは苦笑しながら肯定した。
「千冬くんってさ、男女の友情ってあると思う?」
「え?」
「わたしは幼馴染が男の子だし全然あると思ってるんだけど、男の子と話したりするだけで噂になったりするからさ。難しいなって思って」
なまえさんはきっと友達と思って接していても、相手は友達と思ってない事が多いんだろーなと思った。俺も含めて。そしてその事を話したら俺とも距離を置いてしまうような気がして言葉を飲み込んだ。
「俺は女友達ってそもそもいないんでよくわかんねぇっスけど、どっちも友達って思ってたらアリなんじゃねぇのかなって思います」
「どっちも?」
「片方だけが友達って思っても片方は友達以上の気持ちだったら、それは友情なのかなって」
なまえさんは少し考えた顔で俺を見つめている。あまりピンときていなさそう。
「ま、俺はなまえさんと噂される程仲良くなりたいなとは思ってるっスよ」
俺なりに少しだけ踏み込んだ発言をしてみた。あんまり行き過ぎても警戒されちゃ水の泡だ。
少しだけ目を見開いたなまえさんは小さな声で一言つぶやいた。
「千冬くんは何考えてるか分かんないよ」
その言葉に俺は迷わず一言だけ返した。
「アンタの事しか考えてねーっスよ」