武蔵祭り当日、俺はいつも通り場地さんの家にいた。駄弁りながら時間を過ごしていたら、俺の携帯にメールが届いた。宛先になまえさんの名前が見えた瞬間に浴衣の写真だと気が付き、俺の指はすぐにメールフォルダを選択した。
なまえさんのメールに画像添付のマークが見えた。本文には「2枚で許して🙏🏻」の文字が。その下には本文通り写真が2枚添付されていた。
1枚はお友達軍団含めた4人の写真と、もう1枚はなまえさん単独の写真だった。なまえさんの浴衣は白地に黒の百合が散りばめられたモノトーンの大人っぽい浴衣にマスタードカラーの帯だった。緩く纏められたお団子ヘアは中学生と思えないくらい落ち着いていて、なまえさんの美貌と相まっていつもより数倍の色気を放っていた。
俺は写真を見て思わず固まってしまった。いや待てよ、この状態で武蔵祭りにいたら絶対声掛けられんだろ。
ちゃっかり画像を保存とメールを保護して、なまえさんに「すっげー似合ってます。楽しんでください!変な男には気を付けて」と彼氏でもないのに彼氏みたいな返信をしてしまった。
「千冬、さっきから何変な顔して携帯見たんだよ?」
「えっ、変な顔してました?」
「あぁ。ニヤニヤしたり気色悪りぃ」
なまえさんのメールを見て百面相をしてたのを、場地さんの言葉で気が付いた。場地さんも誰かからメールが来たのか、携帯を見て顔を顰めた。
「場地さん、どうかしたんすか?」
「今から武蔵祭り行くぞ」
「え?」
「三ツ谷から緊急事態の連絡だ」
詳しくは書いてないが、とりあえずドラケンくんが襲われてるらしい。さっきまでなまえさんの事でいっぱいだった脳みそをリセットさせ、俺は場地さんと武蔵神社にすぐ向かった。
三ツ谷くんから呼び出された隊員達が纏まって武蔵神社に到着した。
「内輪モメは気乗りしなかったけどよぉ」
「愛美愛主相手なら思いっきり暴れられんじゃねーかよ!」
「結果今日が決戦になっただけの話」
場地さん達が先頭きって向かっていく。
「お前ら⋯」
「東京卍會勢揃いだバカヤロウ」
「どいつから死にてぇ!?」
「ぺー!テメーはまず殺す!」
「クッ」
「楽しくなってきたじゃんかよ」
こうして雨の中で東卍と愛美愛主の抗争が始まった。俺もガムシャラに拳を振っている。
両チーム共に意識飛ばしてる奴が出てきた頃、入り口近くで女の声が聞こえてきた。
「エマ!!!」
「なまえ!!」
「エマ怪我はない!?ドラケンは!?」
写真で送ってくれた浴衣を着たなまえさんが、エマちゃんに駆け寄ってきているのが視界の端に入ってきた。恐らくエマちゃんが連絡したんだろう。
「タケミっちがドラケンが刺されたって言ってるのが聞こえて…!」
「救急車は呼んだ?」
「ご、ごめん。頭が回ってなくて…!」
「エマ、ドラケンは大丈夫。わたしが救急車呼ぶから。一緒に行こう」
そう言ってなまえさんはエマちゃんと走って行った。俺も喧嘩に意識を戻し、目の前の奴らを倒していく。
しばらくして抗争は片付いていき、俺の周りもほとんどが倒れていた。パトカーの音が近付いて来たのを合図に、俺らはズラかって行った。その足のまま俺らはドラケンくんが手術をしている病院に向かい、入り口付近で終わるのを待っていた。
「ドラケン、無事手術成功した」
すっかり雨が止んだ頃、三ツ谷くんが中から出て来てドラケンくんの無事を教えてくれた。心肺停止と聞いた時は肝が冷える思いをしたが、やっぱりウチの副総長はさすがだ。
その後ろからエマちゃん達と一緒に出てくるなまえさんが見えた。写真で見た姿よりも少しだけ着崩れていたけど、気にならないくらい生で見るなまえさんの浴衣姿は美しかった。心細かったエマちゃんを支えてたのはきっとなまえさんだったんだろう。なまえさんもすげぇホッとした表情をしている。
今日の抗争は正直かなりしんどかったけど、最後になまえさんの浴衣姿を見れたからむしろプラスだ。三ツ谷くんとしばらく病院内にいたのは妬くけど。
俺がなまえさんを食い入るように見つめていると、なまえさんは急にキョロキョロと誰かを探し出し俺と目が合った瞬間に左右に動かしていた顔をピタリと止めてコッチに歩いてきた。勘違いでなければ俺を探していたように捉えられる。
「千冬くんお疲れ様」
「なまえさん、ありがとうございます」
「千冬くんも顔に怪我してる」
「こんなん怪我に入んねーくらいっすよ」
間近で見るなまえさんの浴衣姿は思っていたよりも破壊力があった。俺の近くの奴らもなまえさんをジロジロと見ているのが視界に映る。
「浴衣、やっぱりめっちゃ似合ってるっすね」
「ほんと?嬉しいな、ありがとう」
「変な男に声かけられなかったっすか?」
「わたしの友達知ってるでしょ?声掛けられても全員で無視してたから平気だったよ」
「そーゆう靡かれないところ本当良いっすよね」
なまえさんの周りのお友達軍団は割とサバサバ系の人達ばかりで、なまえさんに近付く軟派男は容赦なく排除してくれる。なまえさんもそもそも芯が強い人だから、基本的にナンパは平気で空気扱いをするからそこも良い。
「今日は何もなくて良かったっすけど、強引な男とかもいるんで気を付けてくださいね」
「そうだね、気を付けるよ」
「危ないと思ったらすぐ俺に連絡してくださいね」
三ツ谷くんからも似たような事言われてたりすんのかなと思ったけど、俺だってなまえさんに頼って欲しいからちゃんと伝えた。ただの後輩はもうゴメンだ。
俺はなまえさんに近寄り、耳元で一言だけ言った。
「まじで可愛過ぎて誰にも見せたくねーわ」
目をパチクリさせて驚くなまえさんを見て思わず笑ってしまった。
「マ、マイキーのところ行ってくる」
そそくさと俺の元を離れていくなまえさんは、耳まで真っ赤になっていた。