8月中旬のお盆真っ只中、俺は武蔵祭りからなまえさんに会っていない事に気が付いた。そして、最近場地さんは何だか眉間に皺を寄せ何かを考えていて、俺といる時間も明らかに少なくなった。どうしたのか聞いても「何でもねぇ」の一点張りだから、俺にはどうする事もできねぇ。

ペケのエサを買いに俺は外に出る事にした。いつものペットショップに向かっていると、綺麗なワンピースを着て学校の時より少しメイクを施しているなまえさんを見つけた。今からどこかへ出掛けるのだろうか。

「なまえさん、ウッス」
「あ、千冬くん!久しぶりな感じがするね」

なまえさんの言う通り学校で顔を合わせていたからか、約10日顔を合わせてないだけで久しく会ってない気持ちになってしまっていた。

「今からどっか行くんすか?」
「ううん、今マイキーのお兄ちゃんのお墓に行ってきたところ」

マイキーくんのお兄さんの事は場地さんから少し聞いた事がある。そして、これは別の隊員から噂で聞いた話だから本当か分からねぇけど、マイキーくんのお兄さんはなまえさんの初恋の相手らしい。

「千冬くん今から暇だったりしない?久しぶりに会えたしちょっと話したいなって」
「全然時間ありますよ」

ペケのエサはまだ2日分はあるから、また明日にでも買いに行けばいいやと自分の都合を優先する。俺らは近くのコンビニに行ってお互いアイスを買い、外の日陰に座って話す事にした。

最近何してたかとか、雑談から始まりなまえさんのマイキーくんの愚痴とかいろんな事を話した。お互いのアイスはすっかり無くなっていて、手には棒だけが握られていた。

「千冬くん、最近圭ちゃんに会ってる?」
「あー、実は最近あんまり会ってなくて。場地さん何かあったんすか?」
「この前圭ちゃんを家の近くで見かけたんだけど、凄く怖い顔してたから話し掛けれなくて。」

なまえさんも場地さんに違和感があったらしく、気に掛けていたがその後全く会えていないらしい。

「圭ちゃん、わたしに東卍の事とか喧嘩の事あんまり話さないから。きっと巻き込みたくないって思ってるのは分かってるんだけどね。でも幼馴染としては寂しいじゃん?」
「場地さんはなまえさんの事すっげー大事にしてるんで、危ない思いして欲しくないんだと思いますよ」

実際、場地さんはなまえさんの事を大事にしてる。ずっと慕ってきた俺には分かる。場地さんがなまえさんの名前を出す時は基本的に心配事がある時だし、そもそも東卍から遠ざけるようにしていたと思う。やっぱり勢力が強まってる東卍に関わると、他のチームから狙われる可能性が高まるのは必然的になる。特に力の弱い女は圧倒的に狙われやすい。

そして、この前の8.3抗争から場地さんは頻りに「好きならなまえをしっかり守れ」と俺に言う。ただ単に俺がなまえさんを好きだからそう言ってるのかと思ったが、場地さんは何か知っててそう言ってるのかもしれない。当然俺はなまえさんに危害が加えられる事がないように努めているし、何かあっても死ぬ気で守るつもりだ。

「俺もなまえさんに何かあったら死ぬ気で助けるんで。年下の後輩っすけど、危ないと思ったら絶対連絡ください」

なまえさんは場地さんの大事な人ってだけではなくて、マイキーくんにとっても大事な幼馴染だ。総長の近くにいる人はやはり危険性は高くなる。場地さんに比べてマイキーくんはなまえさんへの対応がオープンだ。大切にされてるんだなと思う事が多い。恋愛感情は正直分かんねぇけど、幼馴染という枠を超えてる気もする。

「…千冬くんって、わたしがマイキーと圭ちゃんの幼馴染だから優しくしてくれるの?」

そんな質問が来るだなんて思いもしなかったから、一瞬だけ俺の思考が停止した。俺としてはアピールをしてきたつもりだったけど、残念なことに俺の想いは届いていなかったようだ。

「違うっすよ。俺なまえさんの事好きだから。ちゃんと恋愛感情で好きっす」

こんな形で告白すると思わなくて、ありきたりな言葉で伝えてしまった。本当はもっとちゃんと言葉を考えて、いつか伝えようと思っていた。

「…ありがとう。前から少し好意には気付いてたけど、圭ちゃん越しに見てるだけなのかと思ってて」
「俺、場地さんとなまえさんが幼馴染って知る前から好きでしたよ」

一度気持ちを伝えたからか、俺は素直に何でも言ってしまっている。普段なら恥ずかしくて言えないような事を、サラサラと口にしている。案外気持ちがいい。その反面、好意をぶつけた事によって避けられたりしねーかなとか内心ビクビクしている。

「え、っと」
「返事は今いらないっす。またちゃんと伝えさせてください。だから今まで通りに接して欲しいっす」
「…うん。わかった」

なまえさんは困ったように微笑みながら頷いてくれた。

「なまえさん、一個聞いていいっすか」
「ん?どうした?」
「俺の事、どう思ってますか?」

もう俺の気持ちを伝えた時点で、正直どうにでもなれと自暴自棄になっていたからかなり攻め込んだ事を聞いてみた。実際ずっと気になっていた事だから、どんな返事が来ても受け止めるつもりだ。

なまえさんの横顔を見つめ数秒待つと、なまえさんは俺の方を見ずに足元を見ながらポツリ小さな声で答えた。

「千冬くんのこと、意識してるよ」

今の俺の心は十分に満たされる回答だった。

「なまえさんに好きになってもらえるように頑張るから、俺のことちゃんと見てて」

夏に溶けた恋音





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