俺がなまえさんに告白をしてから数日後、東卍の集会があったある日の事。集会終わりにマイキーくんに呼び出された。
「急に悪りぃな」
「いえ、何かありましたか?」
「千冬ってなまえの事好きなのか?」
マイキーくんが真剣な顔で俺に聞いてきた。真剣なマイキーくんはやっぱりちょっと怖えけど、俺の気持ちもそんなに軽いもんじゃない。
「はい、好きっす。あの、生半可な気持ちで言ってるわけじゃねぇっすよ」
「…ハハっ。そんな警戒すんなよ。怒ってるわけじゃねーよ」
マイキーくんは「隣座れよ」と階段に腰を下ろした。俺も隣に腰を下ろさせてもらった。
「俺はなまえの事が大事なんだよ。家族みたいなもんだから、アイツに何かあったら俺はたぶん正気じゃいられねぇ」
マイキーくんの目は本気だった。マイキーくんはきっと本気でなまえさんの事が大切なんだと伝わる。
「マイキーくんはなまえさんの事恋愛として好きじゃないんすか?」
「今は違えよ。ガキの頃は好きだったけどなまえは俺の事なんて見てなかったし、最近はそうゆう感情とは違えなって思ってる」
マイキーくんは空を見上げながら呟いた。
「でも大切な女には変わりねえからなまえを泣かせる奴は殺すと思うし、アイツに何かあったら俺も黙ってねえ」
マイキーくんがなまえさんに抱いてる感情は、正直俺にはよく分からなかった。というよりも、恋愛感情よりも深いような気がしてる。
「千冬、半端な気持ちならさっさと手を引け。なまえを傷付けやがったら俺は千冬でも許さねえぞ」
「俺は本気っす。俺もなまえさんが大切で何があっても守らねぇといけない存在なんで絶対に引かねぇっす」
俺はマイキーくんの目を見て気持ちを伝えた。どれだけ大事なのかを言葉で伝えるのは難しい。言葉は思ってなくても言えるし誇張して発言する事もできる。
ただ、俺の気持ちに嘘は無い。言葉も全て本気だ。これがマイキーくんにどれだけ伝わるのか。
「なまえさんは俺が幸せにしてぇなって思ってます」
マイキーくんは俺の言葉を聞いて微笑んでくれた。
「千冬ってさ、なまえの背中の傷のこと知ってるか?」
「背中の傷?」
「そう、アイツ背中に火傷の傷あんの。大きめの」
「…知らないっす」
「まぁ、この事知ってんのは本当に少数だし、多分なまえは思い出したく無いだろうから無理ねえよ」
マイキーくんは声色を少し落とした。なまえさんに傷があるのは聞いた事もなかった。きっと必死に隠していたんだろう。
「今から話す事は全部本当だ。それを聞いてもなまえの事が好きなら覚悟を持って接しろ」
今から何を聞かされるのか怖くなり、心臓がバクバク激しく動き出した。でも不思議とどんな事を話されても好きでいる自信もあった。
「なまえの父親は今逮捕されて刑務所にいる」
「…え?」
「アイツの父親はクズでさ、小さい頃からなまえは性被害を受けてた。なまえってガキの頃から顔が人形みたいに整ってたし、何も知らない幼いなまえに父親ヅラしていろいろやってたんだよ」
俺の知らない話に頭がついていかない。
「途中で気付いた母親がなまえを守ったんだけど、父親が母親ぶん殴って意識不明の重体。打ち所が悪かったらしくて今も目が覚めなくて植物人間だ」
相槌を打つわけでもなく俺は無言でマイキーくんの話を只々聞いていた。
「その時になまえも母親を守ろうとして体当たりしたらしいんだけど、そりゃ男になんて勝てるわけなくて逆に熱湯を浴びせられて背中を大火傷したんだ」
「そんな…」
酷すぎる話に耳鳴りがしてきた。そんな素振りも見た事なかったから、なまえさんは本気で思い出したくも無い記憶なんだろう。
「たまたまなまえを遊びに誘おうと家に行った俺と場地がその現場に遭遇して父親が逮捕された」
「場地さんも…」
だから場地さんもなまえさんに敏感なのかと察した。やたら心配してるのは、きっとこの事件があったからだろう。
「今なまえは婆ちゃんと住んでんだけど体調崩して入院を繰り返してるから、今もよくウチに来て飯食ったり泊まったりしてる」
マイキーくんの家に行ってるのは何回か聞いた事があった。エマちゃんとは姉妹のような関係だったし別に不思議に思った事はなかったけど、これが理由だったのかと思うと心が痛かった。きっと俺の前では弱音を吐かないように無理をしていたんだろう。
「なまえは自分の体が汚れてると思ってる。何であんなに心も体も綺麗な奴がそんな思いしてんだ?あの父親の所為でなまえは変わった。あの頃よりはかなり前向きになったし明るくもなったけど、今だにあの時の記憶がよぎる時があるらしい。なまえを今も苦しめてる父親を俺はずっと許さねえ。あの時場地が止めてなけりゃ、俺はあの父親を殺してたかもしれねぇ」
マイキーくんは今にも殴り殺しに行きそうな勢いで話していた。
「なまえは他人に傷を見られる事を何よりも嫌うんだ。きっとそれもあってアイツは恋愛からも離れようとしてる。自分の体は醜いからって」
「そんなんで嫌になれる程度の気持ちはとっくに超えてるんすよ」
そんな気持ちは愛情じゃねぇ。俺は思ったよりもなまえさんの事を重く想ってるみたいだ。マイキーくんの話を聞いて思うのは、なまえさんの父親への怒りだけだった。マイキーくんは俺の言葉に目を細めて微笑んでくれた。
「なまえの事、大事にして欲しい。アイツの事救ってやってくれ」
「はい、任せてください」
「ま、先ずはなまえに選んでもらわねーとな」
「う…それが1番の問題なんすよ」
マイキーくんが笑いながら立ち上がった。俺も続いて立ち上がって皆んなの元へ戻る。
空には綺麗な星空が広がっていた。無性になまえさんに会いたい気持ちが募っていった。