みょうじ先輩に恋をしてからしばらくして、俺には尊敬する人ができた。前例がない中学留年を達成した場地さんだ。

ちなみにみょうじ先輩との恋路は何も変わっていない。強いて言えば、俺リサーチでみょうじ先輩の名前と帰りの方面を知る事は出来たので少しは進展した。

憧れの場地さんに着いていくと心に決めて、俺は東京卍會に入った。そして場地さんやマイキーくんに認めてもらい、壱番隊副隊長になった。割と早くこのポジションに着けたのは、場地さんのお陰でしかない。

副隊長に任命されてから少し経った時の集会で、俺の恋は大きく進んだ。

「おい、千冬ゥ」
「場地さんどうしました?」
「三ツ谷見かけてねーか?」
「まだ三ツ谷くんは見てねえッスけど」

そのタイミングでちょうど三ツ谷くんのインパルスの音が響いた。

「おー、三ツ谷。ちょうど探してたんだよ」
「あー、わりぃ。途中でなまえ見かけたから話してたけど、時間遅れそうだったからもう連れてきた」
「ヤッホー、圭ちゃん!」

いろんな奴らのバイクのライトで逆光になってるけど、俺はこの声を聞き間違える事はない。そして極め付けに三ツ谷くんが言った名前にはすげー聞き馴染みがあった。

「おー、なまえ。集会に来んの珍しいな」
「タカちゃんに誘われたから久しぶりに来てみたの。マイキーにも言ってないから後で驚かせて来る」

悪戯してる顔で笑うみょうじ先輩は、校内で見る表情ではなくて、リラックスしていて素でいるように思えた。まさかみょうじ先輩が東卍と繋がっているだなんて考えもしなかったので、俺はしっかりパニックを起こしていた。

「えっ、あ、みょうじ先輩ッスよね…?」
「ん?あ、はい!そうです!圭ちゃんのとこの副隊長の千冬くん…かな?」
「へっ…!?そ、そうっス…!お、俺の事…!?」

ずっと恋焦がれていた人に名前を呼ばれて、もう俺は通常の俺ではなかった。心臓ってこんなに煩くなる物なのかと何故か一瞬冷静に考えたが、それもすぐに激しく打つ鼓動が冷静さを消し去った。恋に落ちた時よりもドキドキして、鼓動が煩いとはこの事かと思った。

「圭ちゃんからよく名前聞いてたから会ってみたいと思ってたんだよね」
「俺千冬になまえの事話したか?」
「あ、いや…みょうじ先輩学校で有名っスよ」

俺ちゃんと話せてるか?と回らない頭で会話を続ける。

「あー、なまえ綺麗だもんな」
「あ?見慣れれば普通だろ」
「圭ちゃんもタカちゃんみたいに褒めてくれればよくない?」
「めんどくせーな」

名前を呼ばれて浮き足立ってて忘れてたけど、みょうじ先輩は東卍とどんな関係があるのか聞きそびれていた。側から見ると完全に襲われかけているウサギ。

「みょうじ先輩って東卍と仲良いんスか?」
「ん?あれ?圭ちゃんから聞いてない?」
「え?」
「わたし、圭ちゃんとマイキーの幼馴染なんだよ」

とんでもない爆弾を落とされた。場地さんからそんな事は聞いた事ない。

「そ、そうなんスか!?」
「聞かれなきゃ言わねーだろ」

その後みょうじ先輩はマイキーくんと話しにこの場を離れた。

「おいおい三ツ谷ァ、お前拗らせてんな」
「おい、千冬の前でやめろよ」

場地さんと三ツ谷くんが、みょうじ先輩が歩いて行った方向を見ながら話し出した。

「すぐバレんだろ」
「だとしても学校の先輩後輩だろ?なまえと千冬」
「えっ、そうッスけど…え?」

嫌な予感がした。この感じは勘違いではないと思う。みょうじ先輩を見つめる三ツ谷くんの目は、確実に俺と同じ気持ちだろう。なんならみょうじ先輩がバイクの後ろから降りる時に、優しく手と腰を支えてあげていたのもしっかり見ている。

「みょうじ先輩のこと…」
「ああ、好きだよ」

俺と違ってしっかりと言葉にする三ツ谷くんは、やっぱり男の俺から見てもかっこいい。そして、どう見ても俺は負けている。いや、同じ土俵にも立ててないが正解か。

「そ、そうなんスね」
「三ツ谷もさっさと言やーいいのに」
「バカ、そんな軽くねーんだよ」
「だせぇな」
「うるせーな」

場地さんに「ダセー」と言われる三ツ谷くんよりも、俺の方がよっぽどダサくてカッコ悪くて弱い。俺からしたら全然ダサくねぇ。

口にも行動にも出さない俺は、みょうじ先輩を想う資格すらないような気がして、心の中でため息をついた。

この日に俺は初めて、みょうじ先輩と話した。
大きく前進もしたが、その分もっとデカい壁にぶち当たった。
そして集会の帰り道、明確に彼女を俺のモノにしたいとも思った。

大きな前進





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