09
倫太郎くんとバイバイしてから、私は交換したばかりの連絡先にメッセージを送った。最初のメッセージで私は伝え忘れた事を送った。もちろん20分ほど送ろうか迷ったけど、ちゃんと本人に伝えたかったというのもあった。送った20分後くらいに倫太郎くんから「俺の名前初めて呼んだ時のなまえの表情可愛すぎ」と返信があって、文章を目にした瞬間に体が熱くなった。
何て返そうか考えていたら、倫太郎くんから追って『また一緒に帰ろうね』とメッセージがあったので、『私もまた一緒に帰りたいと思ってた』と素直に返信した。その後いくつかやりとりをして、自然と終わる流れになったからお互いスタンプを送って終わった。
正直ダラダラとメッセージを送り合うのは苦手だったから良かったと思いつつ、メッセージが終わるのも寂しいなと真逆の感情もチラついてた。
次の日、絵麻に全てを話した。一緒に帰った事、連絡先を交換した事、名前で呼び合うようになった事、私が言った事、倫太郎くんが言ってくれた事。
「え?何、付き合ったん?」
「付き合ってへんよ!」
「なんなんその甘ったるい会話。角名くんも絶対なまえの事好きやん」
「ほんま?私もちょっとそうやないかなって期待しちゃったんやけど、自意識過剰やったらハズいなって思って言わんかった」
「これで好きやないとか言ったら普通にクズやで」
「倫太郎くんはクズちゃうもん」
「はいはい」
私の事気になってくれとるんかなとはちょっと思っていたけど、勘違いやったらほんまに辛いから気にしないようにしてた。
それからはチア部も大会やIH応援の練習で部活に明け暮れ、バレー部もIHに向けて練習に追われていて、連絡を取り合うどころかなかなか倫太郎くんと会話できない日が続いた。
とある日の昼休み。自販機に飲み物を買いに行くために教室を出た。絵麻にも声を掛けたけど「お茶あるからやめとくわ」と言われたので、1人で自販機に向かう。
「好きです。よかったら付き合ってくれませんか?」
もうすぐ自販機というところで、女の子の可愛らしい声が微かに聞こえてきた。人気のない渡り廊下で告白をしているんやろか。盗み聞きも良くないと思い、素早く通り過ぎてお目当てのジュースを買いに行った。
「売り切れやん」
私の好きないちごオレが売り切れていて思わずため息が出る。仕方ないのでフルーツオレかバナナオレで悩んでると後ろから声を掛けられた。
「あれ?なまえだ」
「あ、倫太郎くん。倫太郎くんも飲み物買いに来たん?」
「ちょっとこっちに用事あったついでに来てみた」
そう言った倫太郎くん。これはただの女の勘やけど、さっきの告白はきっと倫太郎くんやないんかなと思った。
「飲み物悩んでるの?」
「あ、うん。いちごオレ買いに来たのに売り切れてて。フルーツオレかバナナオレで悩んどったんよ」
「全部甘そう…」
「もれなく全部甘いね」
倫太郎くんはスポドリを買っていた。私は悩んだ挙句、フルーツオレを買った。2人で教室に向かうため自販機から離れ、渡り廊下を歩いているとさっきの女の子の声を思い出した。
「なぁ、聞いてもええ?」
「ん?どうしたの?」
「倫太郎くん、さっき告白された?」
まさか知られてるとは思わなかったのか、倫太郎くんは驚いた表情をしてた。やっぱりあの時の告白は倫太郎くんやったんやなと察した。初めて感じる自分の中のどす黒い感情に戸惑った。倫太郎くんが取られたらほんまにこの場で泣いてしまいそうやった。
「え、聞いてた?」
「盗み聞きするつもりはなかったんやけど、今の渡り廊下通った時に女の子が好きですって言ってるのが聞こえてきて」
「それだけ?」
「うん。聞き耳立てるのは悪いなって思ってすぐ離れたから。相手が倫太郎くんっていうのも知らんかったし」
「あ、そっか…」
何だか気まづそうな顔をする倫太郎くん。聞かれたらマズイ事でもあったんやろか。まさか告白受け入れたんとちゃうやろか。聞くのは怖いけど、気になってしまったから素直に聞く事にした。
「返事、なんて言ったん?」
自信のなさが現れたのか、私は俯きながら倫太郎くんにそう聞いた瞬間、倫太郎くんの足音が急に止まる。
どうしたんやろと思い、顔を上げて2歩ほど後ろに立つ倫太郎くんの顔を見た。
「俺が何て言ったか気になる?」
倫太郎くんは私の目を見つめて、静かにそう聞いてきた。答えは一つしかない。私はすぐに応えた。
「気になるよ」
そっか、と言って安心したように微笑む倫太郎くん。ほら、その表情。温かくて愛おしくて、私の大好きな表情だ。
「告白はちゃんと断ったよ」
「そ、っか」
「安心してくれた?」
倫太郎くんは意地悪に笑い、そう聞きながら足を進めた。
「あの子には悪いけど、安心しちゃった」
「…なまえには敵わないな」
倫太郎くんが誰かのものになったらどうしようと初めて焦る気持ちが芽生えた日だった。治くんと侑くんがバレー部では群を抜いて大人気やけど、練習試合の後から倫太郎くんもファンが増えてきていると聞いた。うかうかしてるとほんまに誰かと付き合ってしまうかもしれへんと、焦燥感に駆られていた。
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