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最近は部活に追われて、なまえともなかなか会えない日が続いていた。チア部も忙しそうだったし、きっとなまえも頑張ってるんだろうなと思うと、不思議と俺も頑張れた。
そんなある日、1組の羽宮さんという女の子から突然声を掛けられた。
「あ、あの、今日の昼休みに第二体育館の入り口あたりに来てくれへんかな?話したい事があって」
突然の事で口が勝手に「わかった」と言っていた。
侑か治のファンだろう。こう言ったことはたまにあった。呼び出されたと思ったら「侑くんに手紙渡して」と言われたり、「治くんの連絡先教えてほしい」などと使いっ走りにされそうになった事もある。
とりあえず昼休みに約束の場所に向かうと、今日話しかけてくれた羽宮さんがすでに待っていた。
「ごめん、待たせたかな」
「全然待ってへんよ!時間あらへんのにごめんね」
「大丈夫だけど、話って何?」
さっさと話を終わらせたい気持ちが強くて、羽宮さんからの話を急かしてしまった。
「あ、あのな。今日初めて話しかけたのに驚くかもしれへんけど、角名くんの事ずっとかっこええなって思ってて」
「…え?」
「いろいろ言いたい事あったんやけど、角名くん目の前にしたら何言おうとしたか全部飛んでもうた…んーと、あの、単刀直入に言うと」
ずっと俯き加減で話していた羽宮さんは、初めて俺の目を見つめた。
「好きです。よかったら付き合ってくれませんか?」
この子の事は全然知らないけど、一生懸命に伝えてくれてる事はわかった。もちろん、素直な好意は悪い気はしない。けど、俺には決めた人がいるし彼女に誤解されるのだけは嫌だった。
「伝えてくれてありがとう。でもごめんね。俺、本気で好きな人がいて」
「…うん。角名くんの事見てたから気付いとったよ。角名くんの好きな人ってみょうじさんやんな?」
「あー、バレてた?」
「角名くん、よく誰かの事探してると思っとったらみょうじさんの方見てる気がしてて。みょうじさんかわええしむっちゃええ子やから、うちが勝てるとは思っとらんかったけど、けどこの気持ちだけは伝えたくて」
「うん、ありがとうね」
「角名くんも頑張りや?みょうじさん人気やから」
「ね、すっげぇ実感してるよ」
告白してくれたのに、端から諦めていたような口振りだった。きっと羽宮さんは振られる事わかっていたけど、気持ちに区切りをつけるために伝えてくれたんだろう。純粋にかっこいい子だなと思ったし、さらに俺の背中も押してくれてすごく良い子なんだとも思った。
「次は俺が頑張る番だね」
「みょうじさんの彼氏になったらきっと有名人やね」
「各所から妬まれて恨まれそう」
「それはほんまにそう」
今日初めて話したようには思えないテンポで話してて、あれ俺この人に告られたよな?と思ってしまった。
「なんか、角名くんはええ友達になれそうな感じするわ」
「ね、俺の恋愛事情知ってる数少ない人だから」
「恋愛相談のったるよ。10分500円で」
「金とるの?でも、あんまり女の子と仲良くするとなまえに誤解されそうだからやめとくよ」
「むっちゃ一途やん。うちもそんだけ想ってくれる彼氏見つけよ」
「っほほ。頑張って」
お互いに「それじゃあね」とその場で別れた。泣いたりされたらどうしようと思ったけど、結構サッパリした子で助かった。俺の恋心普通にバレてたけど、きっと羽宮さんは周りに言いふらしたらはしないだろう。
そういえばこの辺に自販機あったような気がして、寄ってみる事にした。普段はコンビニで飲み物を買ってから来るから、学校で買う事は無くて無縁だったけど、どんな飲み物があるのか気になっただけの理由だった。その気まぐれな行動が吉と出たのか、俺が恋焦がれる相手が自販機にいた。後ろ姿でも分かってしまうほど、なまえの事には敏感になっているらしい。
近づいて声を掛けると、なまえは買う飲み物を悩んでいた。俺は部活用のスポドリをとりあえず買って、なまえは悩んだ挙句フルーツオレを買っていた。
お互いに飲み物を持って教室に向かっていると、なまえから真剣な声で話を振ってきた。
「倫太郎くん、さっき告白された?」
まさか聞かれてたとは露知らず、俺はどこまで話を聞かれていたかを確認してしまった。誰も聞いてないと思って話していた内容が、まさかの本人に聞かれてしまっていたら、と思うと肝が冷えた。
なまえは告白の部分以外は聞いていなかったようで、とりあえずホッと胸を撫で下ろした。
「返事、なんて言ったん?」
少し俯き加減で俺にそう聞いてきた。告白の返事を気にしてくれてるのか、それともただの雑談の一部として聞いてるのか。
「俺が何て言ったか気になる?」
俺は期待を込めて聞いてみた。なんて答えて欲しいかなんて考えもせずに、突発的に口に出していた。
「気になるよ」
そう一言、きっと俺が求めていた言葉だった。俺はなまえに誤解されないように簡潔に教えた。正直、話の9割はなまえに言えない内容だし。
なまえはいつも俺が求める事を越えた言葉をくれる。自分の中でも良い感じなんだろうなと、自惚れた事を思っている部分はあった。
羽宮さんに背中を押してもらった時に、IHが終わったら想いを告げようと決めた。なまえが他の人と付き合うなんて考えただけで耐えきれない。早まる気持ちを抑えて、今は目の前のバレーに集中した。
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