08



練習試合の後、みんなで一緒に帰ったあの時から少しだけみょうじさんと距離が縮まった気がする。


それに伴って俺の気持ちも順調に大きくなってる自覚はある。練習試合の時に、みょうじさんを見つけて何回か視線を送ると、一度だけ目が合っていたように感じた。みょうじさんは凄い勢いで目を逸らしてたし。


コートに立った時はさすがにゲームに集中したけど、ベンチに戻った時すぐに俺の事見てくれたかな、って気になった。みょうじさん達が応援に来るって知ってから、バレー部みんな気合が入ってたし、実際侑とかすげぇ点決めてた。俺に比べたらコートに立ってる時間が長い侑達の方がかっこよかったよな、なんて卑屈に考えてしまう。


俺の事が好きという噂も、今はもう鎮火した噂になりかけている。やっぱりただの勘違いだったのかもしれない。けど、俺はもうみょうじさんを好きになってしまってる。浮かれたバカの恋だ。


そんな時、治がまた朗報を教えてくれた。


「来週のバーベキュー、絵麻となまえも来てくれるで」
「ほんまか!?サムほんま最高やな!」
「部活ないのかな?」
「終わった後来てくれるんやって」
「むっちゃ楽しみやー!」


声には出さなかったけど、俺からしてもかなり嬉しい事だった。みょうじさんはあれだけ可愛いし、入学当初から他の学年も含めて狙ってる人は多い。そろそろ俺も少しは動かないといけないと思っていたから、バーベキューの時に何かしようと決めた。


すでにインターハイの出場が決まってるため、IHに向けた厳しい練習に明け暮れた。そんな毎日だったからあっという間にバーベキューの日になっていた。その日はいつもより早く部活を終え、1年は設営のため先に川へ向かって準備をする。


「なまえちゃんいつ来るんかなー」
「…なぁ、気になっとったんやけど、ツムってなまえの事マジなん?」
「俺もそれ気になっとった」


いつものメンツで準備をしてると、話題は意中の彼女の話になった。俺も密かに気になってた事だったから
侑の答えに耳を傾けた。


「マジ…やないと思うんやけどな。今はバレーに集中したい気持ちが強いし、彼女とかおっても多分相手出来へんし」
「ふーん。ちょっとマジなんやないかと思っとったわ」
「なんていうんやろ、アイドルみたいな?あ、アレや、推し!」
「侑がオタク…」
「そこらのアイドルより飛び抜けてかわええし、毎日無料で会えんねんで!?こんなんどのアイドルより推し得やないか」
「きっしょ」


その後散々みんなからイジられた侑は、機嫌を悪くしながら準備をしていた。とりあえず侑が本気じゃないと分かって一先ず安心をした。そこからバーベキューが始まり、少ししたところにみょうじさん達が合流した。あ、髪型いつもと違って可愛い。


部長に挨拶をしてから俺らのテーブルに真っ直ぐ来てくれた2人。俺の隣に来てくれたから2人で話してると、いつものように侑が邪魔をしてくる。


「独占しようとしても侑がいつも邪魔するじゃん」


素直にそう言うと、みょうじさんは顔を真っ赤にして、侑は大声を上げながら米をとりに他のテーブルに行った。


邪魔者もいなくなったし、これでようやくみょうじさんを独り占めできる。そう舞い上がると、今までの俺からじゃ想像出来ないくらい恥ずかしい事を口にしてて、これは本当に自分なのかを疑うレベルだ。異性に初めて面と向かって「可愛い」と伝えると、目の前の彼女は分かりやすいほど照れてくれたから勇気を出して言った甲斐があった。


「角名くんおるかなって思ってアレンジ頑張ってみた」


みょうじさんからそんな事を言われるとは思いもよらず、俺は間抜けな声を出してしまった。俺のために可愛くなろうとしてくれたと言っているかのような言い回しで、好意を抱いてる相手からそんな事を言われたらもちろん勘違いしてしまう。ほら、男ってバカだし。


みょうじさんの実際の性格とかは正直知らない。話した事も数回しかない関係だ。本当はいろんな男に同じような事を言ってるかもしれない。思わせぶりな事を言って誑かしてる可能性も大いにある。


でも何故か俺は、そうは思わなかった。


「それ、俺期待しちゃうよ」
「うん、期待してもええよ」


こんなの、恋に落ちるに決まってる。もうすでに落ちてはいるんだけど。


みょうじさんの表情に嘘はないと確信した。いや、そう思いたかった。恋愛は都合の良い考えをしがちだとバカにしてたけど、自分ももれなくそのバカだったと今気付いた。


「みょうじさん、帰り一緒に帰らない?」


思わずそう声を掛けてしまうほど、俺はみょうじさんに本気になってしまった。どこまで気持ちが大きくなるのか怖くなってくる。今まで俺がしてきた恋愛は本当に恋愛だったのだろうか。そう疑問に思うほどみょうじさんへの感情が新鮮で、あぁ、きっとこれが初めての恋なんだろうとぼんやり考えた。


花火の途中で抜け出して、今日2度目の独り占めができた。帰り道でも「角名くんと2人きりになりたかった」と可愛い事を言ってくれるみょうじさん。俺の勘違いじゃなきゃ、きっとみょうじさんも俺と同じ気持ちでいてくれてるんじゃないかなと思ってる。むしろこれ俺以外にもしてたら、普通に嫌いになりそうだよ。


さっき同じバレー部の近藤からかなり攻めたアプローチをされていたけど、全く靡かれる様子もなくて、俺としてもまた勘違いしてしまうポイントになった。

流れで連絡先を交換して、またその流れで名前で呼び合う事にもなった。今日本当にいい日だ。彼女の形の綺麗な唇から発せられる俺の名前に、今日1番の高揚感を覚えた。あー、キスしてぇな、と下品な感情を抑え込みこの日は健全に家へと送った。


家に着いた頃、スマホに数件連絡があった事に気付く。バレー部からの「角名いつ帰ってたん!?」の連絡となまえからの連絡。


『今日の帰りに伝えるの忘れてた事あった』
『倫太郎くんのバレーしてる姿ほんまにかっこよかったです』


君はどれだけ俺の事を落としたいんだろう。
もう頭から離れないくらいには、心を奪われてるよ。


『俺も言うの忘れてた』
『俺の名前初めて呼んだ時のなまえの表情可愛すぎ』









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