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いよいよ今日からバレー部のIHが始まる。バレー部は稲荷崎イチの強豪部活のため、応援もダントツの気合だ。もちろんチア部も吹奏楽部も駆り出され、1年の私も衣装を貰えた。倫太郎くんの晴れ舞台にもなるかなと思って、私も気合を入れてきた。ヘアスタイルは全員指定のポニーテールやけど、大会やないし後れ毛や巻き髪は指定がなかった。バレー部はうちの学校の花形部活でみんなの憧れでもあるため、先輩達はみんなおめかしに必死になっていた。かく言う私も、倫太郎くんがいるから、メイクもいつもより時間をかけたし髪も後れ毛までしっかり巻いてきた。
バレー部の控え室への挨拶は部長と副部長、顧問の先生の3名で行ったらしく、部長の羽多野先輩から「侑くんがなまえちゃんおらんの!?って騒いどったよ」と聞いて、いつもの侑くんで良かったと安心した。きっと侑くんは1年にして主力メンバーだろう。彼の力は稲荷崎に必要やから、侑くんの調子次第で勝ち負けは左右されてしまう。倫太郎くんもユニフォームを貰えたらしく、今日も出場するんやないかなと思っている。
試合が始まる30分前に倫太郎くんに『試合頑張ってね!いっぱい応援してる』とメッセージを送ると、少し前に『俺がコートに立ったら俺だけ見てて』と返信があった。すぐに『そのつもりやったよ』と返信すると既読だけがついて返信は無かった。きっと倫太郎くんは優しく微笑んでくれてるんやないかなと勝手に都合の良いように考えた。
試合が始まると一気に会場内の熱気に圧倒された。今日の相手校は稲荷崎に比べると格下の学校やったけど、それでも全国まで上り詰めた学校やし気は抜けへん。侑くんと治くんも1ゲーム目からコートに立ち、積極的に攻撃をしていた。そして順当に1ゲーム目を取った稲荷崎。客席もすっかり稲荷崎に飲まれているようで、圧倒的に稲荷崎のペースになっていた。
倫太郎くんは2ゲーム目の頭からコートに立っていた。彼のバレーはスパイクの幅が広く、これに対応できるブロッカーはなかなかいないようだ。バレーにはあんまり詳しくあらへんけど、クラスの子がそう言っていた。
約束通り倫太郎くんをずっと見ていた。隙のない動きも、いつもと違う目付きも全部目が離せんくて、すっかり倫太郎くんのバレー姿に魅了されていた。
結果は危なげなく稲荷崎が2ゲーム目も勝ち取っていた。まずは1試合目を終え、次のゲームに駒を進める事ができた。
試合を終えた後各自お手洗いに行ったり外に出たりと過ごしていた。私と絵麻もお手洗いに向かう事にした。
「角名くんも出とったね」
「むっちゃ応援した。治くんなんて1ゲーム目から出とったやん」
「むっちゃかっこよかった」
いつもの恋バナをしながら歩いていると他校生から話しかけられた。
「その衣装って稲荷崎のチア部だよね?すっげー可愛い子いるなって思って声掛けちゃった」
「隣の子は応援?キミもすっげー美人だね!俺ら東京の学校なんだけど、応援に来ててさ」
聞いてもないのにペラペラと自己紹介をしてくる男2人組。黙りを決め込んで歩く足を止めない私達にイライラしたのか、1人の男が強めに私の腕を引っ張ってきた。
「聞こえてんだろ?無視すんなよ」
「ちょ、痛いっ」
「ちょっと、その子に触らんといて」
絵麻が庇って間に入ってくれようとしたけど、もう1人の男が絵麻の手首を掴んでそれを阻止した。
「騒がないでよ。俺らだって手荒なことしたくないんだから」
そう言われグイグイと人気の無い方へ連れて行かれそうになっていると、聞き馴染みのある声と私の恋焦がれてる人の声が聞こえた。
「なぁ、絵麻何してんの?」
「何この状況。なまえ大丈夫?」
「アンタらどこの誰や、誰の腕掴んでんねん」
バレー部の大男達に囲まれ、男2人は驚いたのか掴んでいた手を緩めた。
「大事にしたくないんやったらさっさと帰れや」
学校に知られるとなると面倒事になると思ったのか、男2人は何なんだよ、と言いながらこの場から立ち去って行った。
「ほんまに稲荷崎のマドンナ2人はよう声掛けられるな」
「ほんまに。俺と手でも繋いどくか?なまえちゃんどや?」
「侑くんと手なんか繋いだらファンの子に呼び出されるやん」
「なんや振られた気分なったわ」
治くんと侑くんにほんま心配やわー、と言われ心配させてしまったと反省してると、真顔の倫太郎くんが私の隣にスッと来た。
「じゃあ俺と繋いどく?」
「えっ!?あ、えっと、あ、え、!?」
本気なのか揶揄っているのか分からない表情やったし、好きな人からそんな事を言われたもんやから不自然なほどに動揺してしまった。
「え、ちょ、角名!?」
「いや待て、なまえちゃんの反応も何!?待って、付き合ってるとか言わんよな!?」
私の話を聞いてた絵麻以外は全員取り乱した様子だった。
「付き合ってはないよ」
「付き合って"は"ない!?他は何があんねん!」
「侑声でかい…」
「まって、時間やばない?早よ戻らんと怒られるやん!」
銀島くんの一言で慌て始める4人。急いでバレー部の元へ戻ろうとしていたが、倫太郎くんに一言労いの言葉を伝えたくて、彼のジャージの裾を掴んで引き留めた。
「今日はお疲れ様!あの、ちゃんと倫太郎くんの事見とったよ」
「…っふ。本当可愛い」
ありがとね、と言ってさっき東京の男に触られた部分を一撫でし、侑くん達の後を追っていった。
「何でこれで付き合ってないん?」
「告白してへんからね」
「そうゆう意味ちゃうねんけど」
バレー部と応援部隊は泊まる宿が別のため、会場を出たら倫太郎くんとは会えなくなる。その前に言葉で伝えたいと思っていたので、厄介ごとはあったもののラッキーではあった。
朝早くからの移動もあって、宿までのバスでドッと疲れを感じた。宿に着いてチア部の泊まる部屋に着くと、スマホに通知が来てることに気が付いた。
『明日も俺の事見ててね』
倫太郎くんからの魔法の言葉で、疲れがほとんど払拭されたような気がした。
『倫太郎くんの事見てるね』
『明日も頑張って』
会場で話した時、「倫太郎くんの事"だけ"見てたよ」と言えなかったのは、所詮私は彼女でもないただの同級生だからという気の弱さが招いた事だった。
明日も勝てますように、そう心の中で願って眠りに落ちた。
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