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その後稲荷崎は勝ち進め、準決勝で優勝候補の井闥山学院に惜しくも敗北してしまった。
その後3位決定戦では勝ちを掴むことができ、IHの結果は3位という輝かしくも悔しい結果となった。
最後の試合後に、応援席へ挨拶をした配列の中に見えた侑くんは、全く納得しておらず、むしろ悔しさを露わにしていた。倫太郎くんはいつものような無気力な表情をしていたから、何を思っていたかは私には分からへんかった。
私達も荷物をまとめてバスに乗り込む。倫太郎くんに何かメッセージを送ろうかと迷ってると、タイミングよく彼から連絡がきた。
『今日の夜、時間あったら電話しよ』
『なまえの声が聞きたい気分』
倫太郎くんからの心踊るお誘いに、バスの中で思わずニヤけてしまった。
『時間作る』
『私も倫太郎くんの声が聞きたい気分』
気持ちが強くなっていくに連れて、どんどん素直に伝えられるようになってきた自覚はある。
『可愛い』
絵麻にも言われたけど自分でも思う事がある。私たちの会話は一般的に言うと恋人同士のやり取りみたいな時がある。これは所謂、両片想いなんやないんかなと、恥ずかしながら自惚れている。
IH終わって落ち着いたら伝えよう。気持ちが大きくなりすぎて、自分の気持ちを知って欲しいと欲張りになってきている。いつだか自分で思っていた「片想いでもええ」なんて気持ちは、いつの間にか微塵も無くなっていた。
長旅を終え、家に着いた頃には既に辺りは暗くなっている時間帯だった。軽くご飯を食べて早めにお風呂に入って、寝る準備が終わったのは23時近くになっていた。もしかしたら倫太郎くんは疲れて寝てしまったかなと思いスマホを見ると、5分前に『起きてる?』とだけ連絡がきていた。
『起きてるよ』そう返信するとすぐに着信画面に切り替わった。
「ごめん、今大丈夫だった?」
「あ、うん。寝る支度も終わってあと寝るだけやから」
「俺も同じ。学校着いてミーティングしたから寮に着いたの遅くなったんだよね」
「あの後ミーティングあったんや。疲れてるのに大変やね」
最初は今日の話や雑談をしながら、会話を弾ませていた。初めて知る事もいくつかあった。妹さんがいる事、愛知のどこら辺に住んでいたか、好きなテレビ番組、どんな音楽を聴くのか、新しくいろんな倫太郎くんが知れ、気持ちが弾んだのか疲れていたはずなのに全然眠気が来なかった。
「倫太郎くん疲れてへん?大丈夫?」
「なまえの声聞いたら楽しくて眠たくなくなったよ。なまえは?無理してない?」
「無理してへんよ。私も全然眠気来んから平気」
電話切りたく無いとワガママな事を考えてしまった。ずっと声を聞いていたいと本心で思ってしまう。
「夏休み、お互い部活休みの時あったら2人で遊ばない?」
「遊びたい!チア部はまだ休みあるんやけど、バレー部休みあるん?」
「たまにはあるよ。午前だけとかの日もあるし」
「ほんま大変やね。予定は倫太郎くんに合わせるよ」
夏休みに倫太郎くんとの予定も入りそうで、嬉しくなった所為か急に眠気がきた。時計をチラリと見ると既に夜中の1時半を迎えていた。
「どうせなら夏っぽい事したいよね」
「そうやね。祭りとかないんかな」
「小さい祭りとかもたくさんやるし、どっかの祭り行くのいいね。…あれ?なまえ?寝ちゃった?」
私は突然充電が切れたかのように寝てしまった。
「なまえ、おやすみ」
優しい声でそう言った倫太郎くんの声は、私の耳に届いていなかった。けど、何だか幸せな夢を見たような気持ちで、朝スッキリと目が覚めた。
寝ぼけた頭でよくよく考えると、倫太郎くんと通話中に寝てしまった事を思い出して慌ててスマホを開いた。
『なまえの寝息可愛かった』
『おやすみ。ゆっくり休んでね』
倫太郎くんへの好きが溢れる素敵な朝を迎えられた。
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