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夏休みも残り2週間程となった。絵麻には倫太郎くんと付き合ったその日に電話で報告をした。やっとかいな遅いねん、と言われつつとても喜んでくれた。倫太郎くんとは付き合う事になって少し経つけど、なかなか会えないし今までとあまり変わりはない。けど、少しは恋人の話題をするようになった。

そして今日は稲荷崎高校の近くで少し大きな祭りがある。花火も上がるらしく倫太郎くんと行く事になった。チア部は部活が午前で終わるため、浴衣を着ていく事にした。倫太郎くんは部活終わりにそのまま来るようだった。高校の近くだし、稲高の生徒多そうだなと思いつつも、倫太郎くんとの初デートの嬉しさの方が大きくて、かなり気合いを入れて準備をした。

私の選んだ浴衣は白色の生地に黒の百合の花のが描かれていて、真っ赤な帯でシックな雰囲気にした。高校生にしては落ち着いていて大人っぽいかなと思ったけど、カラフルな浴衣よりも好みだったし、やっぱり1番好きな浴衣を着たかったから思い切って買ってしまった。

ヘアスタイルはゆるふわな高めのお団子にして、金色のシンプルな簪をつけ、後れ毛もゆるく巻いてオイルをつけた。

メイクは暗くなっても映えるようにいつもより濃いめに施してみた。リップも帯と合わせて真っ赤にした。

待ち合わせは神社の鳥居に17時半。10分ほど早く着いてしまったけど、待ち合わせ場所にはすでに倫太郎くんがいた。小走りで倫太郎くんの元へ向かうと、私に気が付いた倫太郎くんは目を見開いていた。

「倫太郎くん待たせちゃってごめんね。バレー部早く終わったん?」
「い、いや。なまえを1人で待たせると危ないかなと思って、終わる時間を遅めの時間で伝えたんだけど、うん、正解だった」

倫太郎くんはそう言って、少し微笑み私の手を優しく握った。

「こんな可愛い彼女を1人で待たせなくて良かったよ。浴衣もすっげぇ似合ってる」
「ほ、ほんま?」
「ほんと。俺のために頑張ってくれてありがとね」

そして何事もなかったかのようにじゃあ行こっか、と言って屋台へ足を進めた。倫太郎くんのために頑張った姿を、会って早々褒めてくれてほんまに時間をかけた甲斐があった。嬉しさが込み上げてきて思わずニコニコしていると、突然大きな声が聞こえてきた。

「はっ!?角名となまえちゃん!?なんで!?手繋いでるん!?」

突然の大きな声は、毎度お馴染みの侑くんやった。侑くんと治くん、銀島くんの3人で焼きそばを食べているところに遭遇したようだった。チラリと倫太郎くんを見ると頭を抱えため息をついていた。

「まってまって!?え!なに!付き合ってるん!?ってかそれよりなまえちゃん今日可愛すぎひんか!?角名おまえ説明せぇ!!!!」
「侑ほんまうるさい少しは静かにせぇ」
「こんなん静かにできるか!!推しの熱愛報道やぞ!?」

付き合ってる事を隠そうという話はしとらへんかったから絵麻に話してもうたけど、倫太郎くんは隠したかったんかな、と少しだけ不安になった。

「あー、もう。説明するから。なまえとは少し前から付き合ってる」
「何で隠してたんや!」
「…お前らに言うと邪魔しそうじゃん」
「邪魔なんか…!せぇへんとは言えんけど!」
「そこは言えや」
「なまえちゃんと付き合ってるなんて、俺なら自慢したいけどな!?」
「安心してよ。夏休み明けからは普通に堂々と校内で手繋いで歩くつもりだから」
「角名おまえ…!ファンを馬鹿にしとんのか…!!」
「おっほほ」

倫太郎くんと侑くんが「一旦その手ぇ離せや!」と言い合いをしてる時に、スッと近くに治くんが来た。

「なまえおめでとな。前から2人両想いやろって思っとったし、お似合いと思っとったから普通に嬉しいわ」
「ほんまに?そんな風に思ってもらえて嬉しいわ」
「俺もそろそろ頑張らなアカンな〜」
「ん?頑張るって?」
「ん?絵麻やけど?」

私は知ってはいけない事を知ってしまったかもしれへん。舞い上がる気持ちを頑張って抑えた。

「絵麻の事好きなん…?」
「そやで、前から」
「絵麻と治くん、めっちゃお似合いやと思う…!絵麻かなり人気やし早よ取らんとあかんよ!!」
「ははっ、むっちゃ必死やん」

治くんと話が盛り上がっていると、隣から何やら視線を感じた。

「治と話盛り上がりすぎ」
「心の狭い男は嫌われるで」
「侑ほんとうるさい」

少し拗ねてる倫太郎くんが可愛くて笑ってしまった。倫太郎くんは早く2人になりたかったようで、3人を追い払おうとしてる。治くんが「ほら、ツムいくで」と侑くんを回収してくれた。去り際に銀島くんが「ほんまに良かったな!むっちゃお似合いやで」と満開笑顔で喜んでくれて、倫太郎くんも嬉しそうな表情で手を振っていた。

「銀には話してたんだ。なまえの事好きって」
「そうなん?」
「銀には付き合った事最初に言おうとしたんだけど、先にバレちゃったな」
「なぁ、倫太郎くんは付き合ってるの内緒にしたいって思ってたりしてへん?」

そう聞くと何か勘違いしたのか、倫太郎くんは少し拗ねたような顔をした。

「なまえは隠したい?」
「ちゃうちゃう!ごめん、言い方よくなかったね。私は全然思っとらへんし、むしろ付き合ったその日に絵麻に言っちゃってて。倫太郎くんとそういう話してへんかったから」
「俺こそごめん、そんなつもりはなくて。俺は本当に学校始まったらみんなに見せ付けたいって思ってたけど、なまえ人気だからさ。みんなに話したら邪魔されそうじゃん。主にバレー部。だから夏休みの間だけは独り占めしようかなって」
「そ、そっか」
「本当にバレたくなかったらこんなに稲高生がたくさんいる祭りに誘わないよ」

それもそうやなと冷静に考えて、さっきまで変な事を考えていて何だか恥ずかしくなった。

「俺、たぶん重いかも。なまえの事好きすぎてさ、俺だけのもんって見せ付けたいし俺だけ見てて欲しいし。今までもなまえに声掛ける男に嫉妬してたよ。さっきからチラチラなまえを見てる男も本当は全員消えて欲しいし。まぁ、信用してるから束縛はするつもりないけどね」

倫太郎くんは繋いでる手に少しだけ力を込めた。私の中の不安を払拭してくれてるようだった。

「私も重い、と思う。この前の練習試合の時に、倫太郎くんの団扇持ってる人いて嫌やったし、バレーしてる倫太郎くんの事かっこええって言ってる人おったのもヤキモチ妬いた」

私も倫太郎くんの手をキュッと握る。倫太郎くんは嬉しそうに微笑んで、普通に手を繋いでいた手を、指を滑らかに動かして恋人繋ぎに変えた。

「なまえの彼氏は俺だし、俺の彼女はなまえだけだから。安心してよ」
「…もうほんまに好き」
「ん、何か買いに行く?」
「りんご飴」

じゃあ買いに行こ、と優しく手を引いて歩き出す。倫太郎くんは身長も高ければ脚も長い。普段もきっと歩幅を合わせて歩いてくれてるけど、浴衣の私に歩幅を合わせいつもよりもゆっくり歩いてくれる。

「おー!角名!…とみょうじさん!?」
「はっ!?角名!?おまっ!?は!?」

りんご飴の屋台へ向かう途中、稲高生に会った。後から聞いた情報だと、倫太郎くんのクラスの子でサッカー部の2人らしく、割とよく話す方の友達みたいやった。

「佐竹と半田じゃん。部活終わり?」
「いや、そうなんやけど…!って、ちゃうやん!?お前何普通に会話してきてんねん!」
「ほんまやで!?何!?つ、つ、つ、付き合うてんのか…!?」

2人は前のめり気味で倫太郎くんに質問していた。倫太郎くんはいつもと変わらず澄ました表情をしている。

「うん。俺の彼女」

少し手を引かれ、倫太郎くんに触れる距離まで近づくと、目の前の2人は驚きと絶望の表情をしていた。

「お前…みょうじさんに何したんや…!」
「みょうじさんの彼氏なんてお前は前世はどんな徳積んだんか言うてみい…!」
「お前ら失礼だな」

目の前で繰り広げされる漫才に普通に笑ってしまった。

「うわ…笑っとる…むっちゃかわええ…てか浴衣のみょうじさんやばすぎやん…しんどい…」
「こんな近くで見たん初めてやから…免疫ないで…俺らには刺激が強いわ…眩しい…」
「はいはい、もう見ないで」
「…うわ、角名が彼氏面してんの腹立つわ」
「彼氏面じゃねぇよ、彼氏だよ」
「ハァーーー、なんで角名が彼氏なん…身近な人がみょうじさんの彼氏なのは1番キツイわ…」

倫太郎くんがバレー部以外とこんなに話してるところを見るのは新鮮で、ノリがやっぱり男の子なんやなって感じた。

「でも、先に好きになったのは私やと思うよ」
「えっ」
「え!?」
「そうなの?」

全員が驚いて私を見た。えっ、そんな驚くんかな。

「い、いつから好きやったんすか…?」
「えっと、入学式の1週間後くらいやったかな?」
「え、そんなに早く?接点なかったよね?」
「だって一目惚れやもん」
「…待って、俺もうこの場にいるのキツイねんけど…みょうじさんむっちゃ可愛い顔して角名にデレデレしとる現実ほんま無理…」
「このくそ可愛い言葉が全部角名宛てって思うとほんま泣きそうになる…しんどすぎ…」
「ね、俺の彼女すごい可愛い」
「うわ…ほんま殺意…HPが0になる前に帰るわ…お幸せにな…」

最後に半田くんがシレッと私達のツーショットを撮って帰って行った。

「面白い友達やね」
「ね、いい奴らだよ」

嵐のように去っていった2人を視線だけ見送って、私達は再びりんご飴を買いに足を動かした。

「ねぇ、俺に一目惚れって本当?」
「うん、ほんま。絵麻に聞いたら分かるけど、ほんまに入学してすぐ倫太郎くんの事好きになったんよ」
「俺より侑とかの方が有名だったのに」
「私は倫太郎くんしか目に入ってへんかったからなぁ。侑くん達が有名って知ったのも倫太郎くん好きになった後やったよ。治くんが同じクラスにおったから知っただけやし」

倫太郎くんは嬉しそうにふーん、と言いながら指先に少し力を込めてきた。そして、りんご飴、焼きそば、たこ焼きを買って、この後始まる花火を見る場所を探した。たこ焼き屋のおじさん情報だと、花火は神社の近くの広場から打ち上がるらしく、神社の近くからだと基本的にどこからでも見れるらしい。

「そこの小さい公園はどう?人いなさそうだし」
「ええね、ちゃんと花火も見えそうやし」

空いてるベンチに2人で腰掛けて、静かな公園で買ってきた物を食べて時間を過ごす。

「なまえの浴衣、来年も見たいな」
「もちろん。来年は倫太郎くんも着てや」
「俺浴衣実家にあったかな…」
「無かったら買いに行く?今安くてええやつも結構あるよ」
「そうなの?じゃあせっかくなら俺も着ようかな」
「絶対かっこええから着て欲しいな。他の人には見て欲しくないけど」
「俺だって今日のなまえ、バレー部にもクラスの奴にも見せたくなかったよ。いつも可愛いのに、さらに可愛いんだもん」

そう言ってりんご飴を食べる私の腰に腕を回す倫太郎くん。その瞬間、目の前に最初の花火が打ち上がった。

「俺、なまえの彼氏になれて本当に幸せ」
「私も。だって、こんなに大好きになった人初めてやのに、その人の彼女になれるなんて夢見たい」

花火を目の前に言葉を交わし、私達は徐々に甘い雰囲気になってきた。次々と花火が上がりだした時、倫太郎くんは私の肩を掴んで向き合うように力を込めた。ゆっくりと倫太郎くんの綺麗な顔が近付いてきて唇が触れた。

軽く口を啄ばむようなキスを繰り返すと、倫太郎くんは唇を少し離し小さな声で「まじで好き」と言い、私の頭に優しく手を添えて、角度を変え深く甘いキスが降り注いだ。時折甘い声が出てしまう私に、「誘ってる?」と色っぽい表情で問いかける倫太郎くんに、初めて異性に欲が湧いた。前回と比べ物にならない程のキスで、私達は一気に甘ったるい空気になる。私も心なしが目がトロンとしているような気がする。倫太郎くんも、愛欲に塗れた色気がある視線を私に向ける。

「先に言っておくね。俺はいつでもなまえとシたいと思うけど、なまえの嫌がる事はしたくないから。なまえの事、体目当てと思われるのは本気で嫌だから、俺は待つよ。けど、まじで好きだから触りたいって思うのも事実」

至近距離で素直にそう教えてくれた。倫太郎くんは恐らく、私が未経験なのを察したんやろなと思った。中学の時に付き合った事はあるけど、体の関係にまでは踏み込めなかった。私の体が行為を拒否をしたからだ。けどさっきの甘いキスの時、確かに倫太郎くんを欲した。その時に、当時の私は行為を拒否したんやなくて、その人との行為を拒否したんやと理解した。

「私、エッチした事あらへんけどウンザリせぇへん?」
「するわけないじゃん。むしろ嬉しいよ」
「よかった。私の初めては倫太郎くんがええって思っとるよ。心の準備とかは分からんけど、私も倫太郎くんのこと触りたいし知りたい」

私も素直に伝えたくて言った言葉に、倫太郎くんは頭を抱えてしまった。

「それ、この場所じゃなくて2人きりの屋内だったらマジで我慢出来なかったわ」
「ほ、ほんまの事言ったんやけど」
「それも地雷」

そうは言いつつも嬉しそうに笑っていた。最後に一度少し短めのキスを落とすと、倫太郎くんは「なまえの最初も最後も俺でいいよ」と言った。

いつの間にか花火は終盤に差し掛かっていた。途中全然見てへんかったな、と2人して笑いながらフィナーレの大きな花火を見た。

初めて過ごす、甘くて熱い夏の夜だった。







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