16
夏休みが明け、学校が始まる。残暑はまだまだ厳しく、涼しくなるのはしばらく先になりそうだった。
朝イチからの全校集会のため、各々体育館へ向かっていく。私も絵麻と並んで歩いていると、途中で倫太郎くんに会った。
「なまえ、結城さんもおはよう
「倫太郎くんおはよ」
「お、角名くんおはよ」
絵麻は私と倫太郎くんを変に茶化す事なく、いつもと変わらぬ態度で接してくれた。そのまま夏休みの課題の話や部活の話をしながら体育館へ向かう。体育館へ着くと少し蒸し暑さ残ってて、早よ終わらんかななんて始まってもないのに不満を露わにした。お互いのクラスの列に並ぶため別れようとすると、倫太郎くんはわたしを引き留めた。
「今日は体育館の整備で部活無いんだけど、放課後遊びに行かない?」
「ほんまに?チア部も部活ないから遊びに行きたい!」
また連絡する、と手を振ってお互いのクラスの列に入った。集会後に絵麻にその事を話すとええやん、楽しんでおいでと見送ってくれそうだった。
教室に戻ると治くんが私たちの元へ来た。
「なぁお2人さん、今日の放課後暇ちゃうん?」
「うちは暇やけど」
「私は倫太郎くんと遊ぶ約束しとるよ」
「は?角名あいつカラオケ行く約束忘れとんな」
「えっ」
そんな話をしてると、ちょうどクラスの前を通りかかった倫太郎くんがいた。
「おい、角名!今日の放課後俺とツムと銀でカラオケ行くって言うてたん忘れとらんか?」
「えー、俺あのメッセージ返信してないから行くなんて言ってないよ」
「それツムに同じ事言えんの?」
「でももうなまえと約束あるから行かないよ」
「あ、ちょうど良いところにツムおるやん。おい、ツム!」
ここから侑くんも混ざると、一気に倫太郎くんが劣勢になった。侑くんの勢いは治くんよりも数倍恐ろしい。
「角名お前、なまえちゃんの彼氏になったからって独り占めしようとしとんな!?調子に乗りよって!」
侑くんの大きな声がクラスに響き渡ると、クラスは突然静まり返り、その後教室内が驚きの声でどよめいた。
「角名くんとなまえちゃん付き合ったん!?」
「みょうじさんの彼氏、角名なん…」
「えー!むっちゃ意外やけどお似合いやなー!」
「角名くん優しそうやし硬派そうやし、なまえちゃんの事幸せにしてくれそうでええやん!」
「おいまじか…俺みょうじさんに彼氏出来るの普通にショックやねんけど…」
クラスが一気にお祝いモードとお通夜モードに分かれる。
「おい、ツム!お前声デカすぎなんやって!」
「ちゃうねん!こんなつもりやなかったんやって!」
双子で何やら喧嘩を始めたけど、当の本人2人は特に気にする事もなく澄ました顔をしていた。
「別に気にしてないよ。むしろ早く広まってラッキー」
「私も内緒にするつもりやなかったし、全然問題ないよ」
そうハッキリと伝えると双子はもちろん、近くにいたクラスメイトも目をパチクリとして何故かため息を吐かれた。
「何やこいつら…別れる気ゼロやん…腹立つわ角名」
「何で俺だけ?しかも別れる気なんてあるわけ無くない?」
「角名もうお前口開くな」
理不尽…と拗ねる倫太郎くん。けど、これできっと私らの交際は広まっていくんやろなと思うと、どうしても頬が緩んでしまう。私の倫太郎くんと胸張って言えるのが幸せで仕方ない。
「とりあえずお前も参加決定やからな!帰んなよ!来世まで追ったるからな!」
そう言ってクラスに帰っていった侑くん。倫太郎くんは頭を抱え、私に視線を向けた。
「なまえ本当ごめん。約束したのに」
「全然ええけど、治くんがさっき…」
「そうそう、良ければ絵麻となまえもカラオケ行かん?と思って」
「あ、そうゆう事?」
「俺が勝手に誘っただけやからツム達は知らんけど、まぁ2人ならツムもええやろ」
倫太郎くんは、なんだ良かった、と安心していた。私達はもちろん行く事になった。
放課後、倫太郎くん達と昇降口に向かうと侑くん達が既にいて、私と絵麻に驚きつつも歓迎してくれた。
「よっしゃ!俺の美声でなまえちゃんをメロメロにさせたるわ!」
「わー、がんばれー」
「なんや角名ぁ!何スカしてんねん!お前ほんま腹立つわ!」
隣で倫太郎くんは侑くんと言い合いをしながらシレッと私の手を繋いできた。そして後ろでは治くんと絵麻が2人の世界に入ってるのを見て、上手くいってるのを心の中で喜んだ。
駅前のカラオケに着いて部屋に入り早速歌を歌っていく。侑くんは宣言していた通り歌が凄く上手くて、倫太郎くんの歌声はいつもの声の通り色っぽくて凄くかっこよかった。私もカラオケは得意やったから、今流行りの歌を歌うとみんなが褒めてくれて嬉しかった。
2時間歌いまくって外に出ると、空は少し暗くなり始めていた。男の子4人はお腹が空いたようでファミレスに寄ろうという事になった。私と絵麻も甘い物が食べたかったからデザート類とドリンクバーを注文する。
「なんやいつものファミレス風景に華が2人おると別世界に感じるわ」
「ファミレスでデザートだけ頼む男おらんからな」
「なんかアレやね。侑くんって残念なイケメンやな」
「誰が残念やねん!」
いつもの大きな声で絵麻へとツッコむ侑くんに治くんが店内くらい静かにせぇ、と普通に注意をしてた。
「なまえティラミスだけで足りるの?」
「なんか今甘いもん食べたい気分やから。足りへんかったら追加で何か頼もかな」
「もし食べたかったら俺ハンバーグとドリア頼んだから食べていいよ」
「ほんま?ありがと」
そんな会話をしてると侑くんから冷ややかな視線を感じた。
「ほんまに付き合うてるんやな」
「え、まぁ、そうだけど」
「サボり癖悪化させたらほんまに許さんからな」
侑くんはかなりストイックと聞いた。恋に怠けてバレーを疎かにする事が許せんのやろうなと思った。
「侑くん、それは大丈夫やで」
「なんで?」
「倫太郎くん無気力そうに見えるけどバレー好きやろうし、私もバレーに一生懸命でかっこええ倫太郎くんが好きやから。無いとは思うけどこれでバレー怠けたら私が喝入れたるよ」
そうみんなに宣言すると、ふはは!と侑くんが笑う。
「こんな可愛い彼女にそんな事言われたら、もう頑張るしかないんちゃう?」
「…言われなくても幻滅されたくないし、怠けるつもりはないよ」
「ええ彼女やなー」
「俺もなまえちゃんにそんな事言われたい人生やったわ」
「残念だったね」
「角名ぁ!!」
いつものように侑くんと戯れ合う倫太郎くんを見て笑っていると、注文した食べ物が続々と届けられた。男の子達が頼んだ物で机はいっぱいになる。見ているだけでお腹がいっぱいになりそうやった。
「なまえドリア食べる?」
「ええの?一口欲しい」
そう言って倫太郎くんが使っていたスプーンを受け取りドリアを一口いただいた。うん、美味しい。
「角名達ってもうチューしたん?」
「侑、お前は…」
「お前は小学生なんか?」
「いや、平気で間接チューしとるからこっちが恥ずいやん。せやから気になって」
「理由が意味わかんないけど」
「話逸らすんか!」
「侑くんそんな話は男子だけの時にしてやー。なまえ見てみ」
絵麻がそう言うとみんなが私を見る。え、なになに。
「なまえちゃん顔真っ赤やん…え、なに、むっちゃ可愛い…」
「なまえのその反応はもう肯定してるのと一緒やで」
「え、うそ!?私顔真っ赤!?」
そう言って隣に座る倫太郎くんを見ると、倫太郎くんは意地悪そうに笑って一言。
「耳まで真っ赤」
無意識にこの前の甘いキスを思い出してしまったのか、自然と顔が熱っていた。侑くんは無言でご飯を掻き込み始め、銀島くんは何も聞いていなかったように箸を持っていた。隣の倫太郎くんは満足そうに微笑んでなまえのティラミス一口ちょうだい、といつもの調子で話してきた。
「意外となまえってウブなんやな」
「意外って治くんどうゆう意味やねん」
「なまえモテるやん。キスくらい普通にしてるんちゃうの?」
「おい、サム。なまえちゃんをそんなビッチ扱いすんなや」
「何で侑がキレてんねん」
治くんが大分失礼な質問をしてきたけど、倫太郎くんはあんまり興味なさそうやった。過去の事なんてあんまり興味ないタイプなんかな。
「んー、倫太郎くんが初恋やからなぁ」
「え!?」
「ほんまに?」
「そうなん?」
「え」
全員が驚いて声を出した。絵麻まで驚いてるやん。
「付き合った事ないん!?」
「中学の時に好きなんかなって思った先輩に告白されて付き合った事あったんやけど、結局思った感じとちゃうかったって振られたんよね。けど倫太郎くんを好きな今思うと、あの時の気持ちって全然好きやなかったなーって思って」
「あー、せやから角名が初めて好きになった人って事か」
「確かにあの時の先輩に振られた時、なまえ全然泣いてへんかったね」
「…うわ、角名むっちゃ嬉しそうやん」
「そりゃあね」
倫太郎くんはご機嫌にハンバーグを頬張っていた。よう食べるなぁと思ってると、何か勘違いしたのか倫太郎くんは、いる?とハンバーグを差し出してきた。
「大丈夫。お肉の気分やなくて。ありがとうね」
そう言うと、そっかと言いながら私に差し出したハンバーグをそのまま自分の口に持っていった。
そうして1時間ほど飲み食いして会計を済ませ外に出ると、辺りはかなり暗くなっていた。今日は帰ろうとなったが、既に暗くなってるため絵麻を治くんが、私を倫太郎くんが送る事になった。
「寮から遠くなっちゃうけど、ほんまごめんな」
「全然いいよ。なまえが1人で暗い道歩く方が危ないから」
みんなと別れてすぐに自然と恋人繋ぎをする。倫太郎くんの手は大きくて、スッポリと私の手を包み込んでくれる感覚が大好きだった。
「今日なまえさ、俺の事初恋って言ってたじゃん?俺もそうなんだよね」
「私が初恋ってこと?」
「うん。俺もこんなに好きって思った事なくて。あー、これが本当の好きって気持ちなんだって思ったんだよね」
倫太郎くんも私と同じ気持ちでいてくれたみたいで嬉しく思った。
「ふふふ、一緒やね」
「ね。一年の人たちには俺らの関係も知られてるだろうし、これからは校内でも手繋げるね」
「そうやね。恥ずかしいけどすごい嬉しい」
明日からは今まで以上に身なりを正さなあかんなぁ、と幸せを噛み締めていた。
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