22
体育祭まで残すところあと2日となった。そして今日は体育委員の仕事の日でもある。倫太郎くんからは朝から『何かあったらすぐ連絡して』とメッセージがあった。備品確認だけだし、何もないんだけどなと思いつつ了解の旨を返信した。
昼休憩、さっさとご飯を食べて約束の時間に体育倉庫へ向かう。近藤くんはまだ来ていなかったようで、時間もないし1人で進めれるところだけやっておこうと、体育倉庫に入る。少し進めたところで近藤くんが来た。
「ごめん、鍵掛かってると思って職員室に鍵取りに行ってたんやけど開いてた?」
「うん、開いとったよ。閉め忘れかな?」
特に気に留めず第一体育館倉庫の確認を進めた。第一の確認項目は少なくすぐに終わった。
「次は第二体育館やな」
「第二の確認項目多ない?」
「細かい道具が多そうやな。時間内に終わるんかな」
そう言って倉庫の鍵を開けて中に入ると、第一よりも広い倉庫だった。
2人で読み上げと確認担当に分かれて進めていく。残り半分ほどで読み上げ担当と確認担当を変え、わたしが備品の確認をすることになった。
「はい、これチェックシート。ペン私ので良かったら使う?」
近藤くんに用紙とペンを渡そうと近付くと、突然手首を掴まれる。
「みょうじさんのええ匂いなのは元からなん?それか角名のため?」
「え?」
「前はこんなえて匂いしてへんかったよ。角名と付き合うくらいから匂い変わった」
「なんで、そんな事」
「ずっと好きやったからに決まってるやん。俺は角名より前からみょうじさんが好きやったんやで。それに前に言ったやろ。本気で狙うって」
「近藤くん、腕痛いんやけど」
「俺はもっと痛かったんやけど。なんで角名なん?バレー部で言うたら俺の方がかっこええやろ?」
「何、言うてんの?」
近藤くんは私の手首を強い力で握って、怒ったような表情で私に問いかける。
「俺やってみょうじさんの事大切にするし、みょうじさんだけしか見てへんよ。俺選んだら絶対後悔させへんから」
「離してやっ!何言うてんのか意味分からへんし、倫太郎くんの事貶すんやったら許さんから」
そう言って手を振り解き近藤くんを睨むと、彼は私の肩を強く押す。バレー部のいい体格をした男の子に押され、もちろん私はバランスを崩した。床に重ねてあるマットにお尻から着くと、勢いが良かったのもあり激痛が走った。痛くて立ち上がれない私を他所目に、近藤くんは倉庫の鍵を閉めた。本気でマズイと思い、ポケットにしまっているスマホを取り出して倫太郎くんに連絡しようとしたが、パスコード画面で手間取り近藤くんに手を叩かれスマホが手から離れた。
「何?マットに座って誘ってるん?」
「触らんといてくれん?」
「みょうじさんっていつも優しそうなのに、ほんまはこんな気が強いんやね」
自分の方が力強いのを分かっているからか、随分と余裕がある話し方で声を掛けてくる。こんな時間に体育館へ来る人もおらんやろうし、ほんまにどうしよう。
「みょうじさんいつもええ匂いやなって思ってたんよ。近くで嗅がせてや」
「ほんまにやめて。こんなんすぐバレるで。ええの?」
「みょうじさんと一発ヤれればもうええわ」
近藤くんはそういうと私との距離を詰めてきた。私は逃げようと立ちあがろうとするも、さっきの激痛が再び襲い、またマットに転倒してしまった。その隙に私を捕らえ、器用に私の両手首を片手で纏め上げ、私の上に跨ってきた。
「この眺め最高やな。むっちゃ興奮してきた」
「ほんまにやめて!」
「なぁ、角名とはもうヤったん?アイツって童貞やろ?俺の方がテクあるから、絶対俺の方が上手いで」
「近藤くんにテクがあっても私の気持ちがないから絶対気持ち良くないわ」
「結構言うやん。煽ってるん?」
そう言うと制服のボタン半分を外して、キャミに手を突っ込み強引に胸を揉んできた。吐き気がするほど嫌やった。気持ち悪くて仕方なかった。好きな人やない人から触られる事がこんなに嫌悪感に駆られるとは知らなかった。
「みょうじさんまじで胸デカいやん。やっば。舐めてええ?」
「っ、キッショ」
「そんなキモい奴に今から抱かれる気分は?」
「死にたい気分やわ」
「そんな事言わんといてや」
そう言うと制服を捲り上げ、下着の上から胸に顔を埋めて来た。近藤くんの荒い呼吸を直で感じて、ほんまに不愉快やった。近藤くんがわざとらしく股間を押し付けてきて、大きくなってるのを感じる。
「なぁ、俺の舐めてや」
「噛みちぎってもええの?」
「みょうじさんやったらほんまにやりそうで怖いわ」
そう言うと手を拘束したまま顔を近づけてきたと思うと、そのまま首に顔を埋めて首筋を舐めてきた。
「っ、やめてや!」
「騒ぐなや、ごっついキスマ付けたろか」
「やめて!」
ほんまに嫌やった。倫太郎くんもした事ないのに、と思うと自然と涙が出た。できるだけ大きな声で拒絶するとイライラしたのか、舌打ちをして顔を離した。
「はぁ、もう叫べへんように俺の咥えろや」
そう言って近藤くんは自身のベルトを外そうと手を掛けたその時、鍵が閉まっていたはずの扉がガチャリと音がして、ガラリと扉が開いた。
両腕が拘束され服が乱れ泣いてる女子生徒、その目の前にはズボンを下ろしかけてる男子生徒。誰が見ても一方的に犯している図だった。
扉に立つ人物を見て驚いたのか、私の手を自然と離した。手が解放されて私は乱れた服を軽く整えた。
「何してるん、近藤」
「き、北さん…なんでここに…」
「俺の質問に答えろ。近藤、ここで何してたんや」
バレー部でお見かけした事がある人やった。近藤くんが黙ってしまうほど怖い先輩なのだろうか。表情からは感情が読み取れないほど真顔で、近藤くんを追い詰めるような圧があった。
「その子泣いとるやん。同意ある感じやないけど」
そう言って私を見た。私は何て言えばいいのか分からず下を向く。
「とりあえず、キミ。この事は同意の下やないんやったら、自分の教室に戻っとき。この事は俺がバレー部の顧問に話しておくから」
「ちょ、」
「なんや、何か弁明でもあんのか」
私は無言で立ち上がり、先輩に一礼をして立ち去った。教室に戻る気分ではなかったけど、あの場にいるのも嫌やった。何も考えたくなくて、黙って早退しようかと思いながら体育館を出ると、前方から倫太郎くんの姿が見えた。直しきれなかった少し乱れた制服姿が見えたのか、凄い勢いで走って来た。
「近藤に何されたの」
「倫太郎くん、ごめん」
「何された」
「…胸、触られた」
開口一番に聞かれて驚きつつも正直に言うと、目を見開き私に触れていた右手に力を込めた。一瞬で倫太郎くんが憤るのを察した。
「なまえ、怪我はしてない?」
「ちょっと転んで腰が痛いくらい」
「先に保健室行ってて。俺も後から行く」
そう言って倫太郎くんは体育館に行こうとした。
「待って!どこ行くん?」
「近藤のところ」
「何するん?」
「分かんない」
「手出したらあかんよ」
その言葉を聞いた倫太郎くんは私を見た。いつもよりかなり冷たい視線で萎縮してしまう。
「何?近藤のこと庇うの?」
「っ、ちゃうよ!あの人の心配なんてこれっぽっちもせえへん。倫太郎くんの立場が悪くなるのが嫌やねん。あんな奴の所為で、倫太郎くんの未来が潰れる方が怖い」
私が矢継ぎ早にそう言葉にすると、倫太郎くんは冷静さを取り戻したのか、無言で私を抱きしめた。
「手は出さないって約束する。けど近藤に聞きたい事も言いたい事もあるから倉庫には行ってくるよ」
「分かった」
倫太郎くんは私の頭をひと撫ですると、早歩きで体育館倉庫へ向かっていった。やっぱり好きな人に触れられると心が満たされる感覚になる。
1人になった私は、倫太郎くんに言われた通り保健室へと向かった。
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