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待ちに待った体育祭。朝から化粧やヘアアレンジの準備をして、絵麻と一緒に学校へ行く。

「ゆるふわローポニテにしたんや。かわええやん」
「ツインテは走る時目に入りそうで邪魔そうやん」
「考え方が運動部」

学校に着くといつもと身なりが違う女子といつもと変わらない男子がいて、気合の差に少し笑ってしまった。クラスの女子と日焼け止めを念入りに塗り込んだりひとしきり写真を撮った後、軽くクラスでホームルームをしてから外に出る。

開会式から始まり、午前の種目がどんどん始まる。私はさっき大縄跳びが終わって、今から倫太郎くんが出る綱取りがやるため、クラスの応援席に戻る。

「なまえお疲れ。自慢の大きなお胸が揺れてて男子が釘付けになっとったで」
「はぁ!?え、むっちゃ恥ずいんやけど」
「角名くんに後で怒られるんちゃう?」
「えぇ…不可抗力…」
「サラシでも巻いたらええやん」
「そんなんいつもとちゃうからリミッター制御しそうで嫌や」
「どんだけガチやねん」
「てか隣のクラスの荒井ちゃんって治くんファンなんやね。団扇持っとるやん」
「な、初めて知った」

相変わらず男子バレー部は大人気で、侑くんと治くんの団扇がチラホラと見える。私も倫太郎くんの団扇持ってこればよかった、と思っていたらなんと葉月が「なまえ用に角名くん団扇作って来たであげるよ」と言ってくれたので、お言葉に甘えてむっちゃクオリティの高い"角名"と書かれた2連団扇を持った。入場してから私を見つけた倫太郎くんがかなり驚いた顔をしていて、うちのクラスメイトから笑われていた。

倫太郎くんのクラスは綱取りで1年の中で1位だった。なまえが角名くんの事応援するからや!と理不尽に責められた。

クラスごとに分かれてる応援席は、学年ごとのクラス順のため、3組と4組は隣同士だった。倫太郎くんが応援席に戻ってくるのが見えた時、目が合ったので手を振ると倫太郎くんはこちらに来た。

「倫太郎くんお疲れ様」
「なまえもお疲れ。団扇どうしたの?」
「クラスの子、あのー、葉月が作ってくれてん。なまえ用に作ってきたって言われて貰った」
「凄いね、めっちゃ嬉しい」
「葉月に言っとくわ〜。喜ぶと思う」
「団扇も嬉しいけど、なまえが俺の応援してくれてたのが嬉しかった」
「そんなん当たり前やん」
「俺も大縄跳び見てたよ」
「ほんま?おもんなかったやろ?」

そう聞くと、倫太郎くんは私の耳元に顔を寄せた。

「なまえの胸揺れてて勃ちそうだった」

小声とはいえ、こんなに人がいる中でそんな事を言うもんだから、私の顔は次第に真っ赤になっていった。私の顔を見てニヤニヤしつつも、また耳に顔を寄せて「他の男子も見てて嫌だったけど」と今度は少し不満げに呟いた。

「そこまで気が回らんくて、ごめんね。絵麻に言われて私もむっちゃ恥ずかった」
「まぁ、もう付いてるモノだから仕方ないけど。他の男達は触れなくて残念だねざまぁって思っとくよ」

そう言って自分のクラスは戻って行った。

「ほんまラブラブやな、キミたち」
「自分でも思うわ。あ、葉月。倫太郎くんが団扇喜んどったで」
「ほんま?よかったわ。なまえの笑顔のために頑張ったって言うといて」
「私ほんまモテモテで困るわ」
「自意識過剰の推し最強」
「オタク拗らせすぎやろ」

葉月とそんな事を話してると障害物リレーの呼び出し放送があった。絵麻と一緒に向かい、入場門で待っていると隣に並んでいた他のクラスの男の子達に話しかけられた。

「みょうじさんと結城さんも出るんやな。敵やけど頑張ろな」
「うん。頑張ろな」
「なぁ、コイツがみょうじさんの事ずっと気になってたらしくて、よかったら友達になってあげてくれへん?」
「おいっ!言うなよ!」
「ええやろー、お前意気地なしやから話しかけれへんかったやん」
「そうやけど!」

倫太郎くんと付き合ってからはあまりこういったような内容で声を掛けられる事は無かった。

「あー、みょうじさん。よかったら連絡先とか…」
「えっ、と。その、ごめんね。私、彼氏おって。彼氏に嫌な思いとか誤解されるのがほんまに嫌で。折角そう言ってくれたのにほんまごめん」

そう言うと、男の子達は目を見開いていた。そんなキツイ言い方したかな、と少し不安になった。

「噂には聞いとったけど、ほんま角名の事好きなんやな」
「うん、なん、か、ここまで潔いと吹っ切れれるわ」
「あ、ありがと?」

そう話してるうちに入場となり、そのまま会話は終わった。障害物リレーはみんなグダグダだったけど、私たちのデカパンとパン食いの子が爆速だったお陰で2位でゴールをした。私らのクラスの前を通った時、私と絵麻の強火オタクが目立ちまくってて普通に笑ってしまった。ゴールした後にまた絵麻に「胸揺れとったな」と言われ、少し気分が落ちた。

クラス席に戻ると何故か大盛り上がりで迎えられた。

「うちのクラスのアイドルほんまビジュ最強やったで!」
「圧倒的優勝やったわ」
「可愛い子と美人が同じパンツに入ってるの性教育的にあかんのちゃうか?」
「何言うてんの?」

女子から熱烈なお褒めのお言葉をいただいた後、絵麻と一緒に水分補給をしてると治くんが近づいてきた。

「3組アイドルのお2人さん、お疲れ」
「治もアイドルやん」
「誰が双子アイドルや」
「そこまでは言うてへんけど」
「あー、なまえ。角名が不満げやったで」
「え、なんで?」
「また他の男子が見とるって」
「あー、なまえの揺れてるアレな」
「そうそう。俺絵麻の事見とったのにキレかけられたしな」
「それはごめん」

ちゃっかり絵麻にアピールしてるのをサラッと流し、また倫太郎くんに何か言われへんかなって少し億劫だった。

その後競技が進み、昼休憩に入った。40分の昼ご飯の休憩を挟み、午後の部が始まる。追加の飲み物を買いに絵麻と自販機に行くと、いつもはそんなに人がいないのに、今日は人が多く少し待つようだった。最後尾で絵麻と待っていると、近くで私たちのことを話してる声が聞こえた。

「あれ、さっき太田が話しとった1年のむっちゃ可愛い子と美人な子やん。右がおっぱい揺れとった子やろ」
「近くで見るとえらい顔整っとるやん。後で声掛けたろ」
「俺らの学年にもあんだけ可愛い子おったら嬉しいねんけどな」
「俺美人の方狙うわ」
「俺圧倒的に巨乳の可愛い方」

本人達は小声のつもりなのかもしれないけど、普通に聞こえてくる下品な会話に絵麻と2人嫌気がさしていて、買ったらすぐに帰ろうと決意した、その時。隣に大きな人が異常に近い距離で並んだためふと見上げると、覚えのある大好きな匂いと見慣れてる大好きな彼の姿があった。目が合うとニコりと笑ってくれ、嬉しくなり倫太郎くんの腕に自分の腕を絡ませた。

「倫太郎くんやん」
「治と飲み物買いに来たら2人が変な視線向けられてたからさ。大丈夫?嫌なことされてない?」
「うん。平気やで」

治くんと来たと言っていたから、チラリと絵麻の方を見ると絵麻の隣には治くんがいた。

「なんか、2人いい感じやね」
「ね、侑が騒ぎそう」
「ほんまやね」

体を動かした後で体が熱ってるのもあり、腕を組み続けてると触れてる部分が暑くなってくる。腕を解こうとすると、倫太郎くんは「腕解くの?」と聞いてきた。

「暑ないかなって思ったんやけど」
「暑いけど可愛いが勝ってたから全然問題なかったよ」

そう言いながら、倫太郎くんは腕を私の背中に回して、腰あたりに手を置く。さっきよりも密着する体勢になり、困惑しながら倫太郎くんを見上げると、彼は上機嫌で前を向いていた。

「さっきの先輩達が悔しそうに見てる。ウケるね」

元から俺のだし、と言いながら私達はそのまま飲み物を買った。

昼休憩は倫太郎くん達に着いていき、バレー部のいつものメンバーで過ごした。侑くんに「俺の声聞こえとった!?」と言われたので、とりあえず聞こえてたと言っておいた。

「なまえちゃん、俺の団扇は持たへんの?」
「他のクラスは倫太郎くん以外応援せえへんよ。なんなら倫太郎くんですら怒られたんやから」
「ええやん〜、なまえちゃんのクラスにも俺の団扇持ってる子おったよな!?」
「侑うるさい」
「ツム静かにせぇ」

みんなに突っ込まれながら静かになる侑くんが面白くて絵麻と笑っていた。その時、うちのクラスの子が写真を撮ろうと声を掛けてきた。

「角名くんも!約束した写真撮ろうや!」
「あ、そうそう!倫太郎くん、私の名前の団扇持って撮ってや」

女子のグイグイに乗せられ、私がアイドルのように手をハートにして、その隣に私の団扇を持って立つ倫太郎くんの写真を撮る。

「やっば!!!角名がオタクなんおもろいな!!」
「不慣れなオタクすぎて表情硬いで!!」
「なまえちゃんむっちゃアイドルでかわええよ!!」

治くんと侑くんが笑いながら倫太郎くんにちょっかいをかけ、侑くんは私の事を褒めてくれる。

「なぁ、私も倫太郎くん団扇持った写真撮って!」

逆パターンで写真を撮りたいと提案すると、クラスの女子はノリノリでカメラマンが3名だったのが8名まで増えていた。

「なまえ団扇もうちょっと下!角名くんはなまえにファンサービスして!バックハグでもええよ!」

そう悪ノリをする葉月。倫太郎くんもその悪ノリにニヤニヤしながら対応してきた。女子のキャーキャーした声と侑くんの「セクハラアイドル!!!!」という罵声が響き渡る。もちろん私の顔は真っ赤だ。

いい写真が撮れたのか女子達は楽しそうにしている。

「俺もなまえちゃんのファンやから!俺も写真撮る!」
「はい、整理券お持ちでない方はこちらからお帰り願います〜」
「なんでやねん!」

その後絵麻と絵麻の団扇を持つ治くんも写真をちゃっかり撮っていて、美しい2人にクラスの女子はうっとりしていた。

「3組の女子はみんな明るいね」
「やろ?みんな仲ええからおもろいよ」
「楽しそう。ねぇ、なまえツーショ撮ろ」
「え、さっき撮った…」
「俺のスマホでも」

そう言ってインカメでスマホを構える倫太郎くん。条件反射でカメラを見て、キメ顔まではいかずとも少し微笑むような表情をしたところでシャッターが押される。写し出された写真は、2人のいい笑顔が画面いっぱいに広がっていた。

2人の微笑ましいその姿を、クラスの女子が後ろから盗撮していたのは後から知る事になる。








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