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休憩が終わり、午後の部が始まった。
倫太郎くんの借り物リレーは、甘い展開はなくて、倫太郎くんは4組の担任と手を繋いでゴールしていた。
一緒に出ていた侑くんのお題は『彼女』だったらしく、最初に私の所に来たが葉月や絵麻に「アンタの恋人はバレーやろ」と言われ、置いてあるバレーボールを持ってゴールしていた。

そして体育祭名物のクラス選抜リレーの入場待機が始まる。クラス選抜は、クラス内の男女各4名の8名が繋ぐリレーで、どのクラスも力を入れている。走る順番も各クラス自由のため、後半に追い返すクラスやスタートダッシュに重きを置くクラス等、戦略は様々だ。
うちのクラスも速い順で男女8名を選んで、バトン練習や助走練習は何回かして万全な準備をしてきた。
学年単位での競走のため、1年は4クラスでの争いだ。

待機列には倫太郎くんもいた。倫太郎くんは4組の男子1巡目を走るらしい。私は女子のアンカーを走る。
どのクラスもガチで来てるので、待機列も他の競技に比べ心なしかピリピリしていた。

入場してスタート位置に着くと、各クラスの応援が盛り上がる。今年は大人気の宮双子もいる所為か、他学年の応援も多く聞こえる。ありがたい事に私のなまえを呼んでくれるチア部の先輩の他にも野太い声もチラホラ聞こえる。

緊張しつつも、第一走者がスタートした。順調に走っていき、うちのクラスは現在2位だった。1位は倫太郎くんのクラスで、追い抜かぬにはなかなかに頑張らないといけなさそうだった。順位は変わらず、もう少しで私の順番が来そうだった。
私と一緒に走る子はバスケ部の女の子で、見るからに速そうだった。

バスケ部の子が先にバトンを貰い走る。すぐその後に私もバトンを受け取り走り出す。目先の相手を真っ直ぐと見て全力で足を動かす。周りの声が聞こえないほど集中をしていた。距離はバトンを受け取った時よりも半分くらいは縮まった。けども、ラストの走者、治くんが目に入る。距離はかなり縮める事ができたが、追い抜く事はできなかった。最後の一周、彼に全てを託す。助走もバトン渡しも上手く行った。

私は全力で走ったため呼吸が乱れ、トラックの内側までは自力で歩いた後、膝から崩れ落ちた。
応援をするほどの力は無かったけど、治くんのゴールの瞬間は見ようと視線を上げると、1位の4組と並んで走っていた。グラウンドの声援が大きくなる。後ろから侑くんも追い上げている。

ラストスパート、見事に治くんが1位でゴールを切った。

侑くんもかなり速くまさかの2位まで追い上げた。私も少し回復をして、立ち上がって喜ぶ3組の子たちの輪に入った。

「なまえむっちゃ速かったな!」
「なまえちゃんほんま速くてかっこよかったで!」
「宮くんもむっちゃ速かったわ!」

3組のリレーメンバーが私と治くんを称えてくれた。

「みんなのおかげやん。バトン渡しも上手かったし、最高やったわ」

喜んでいるのも束の間、次の2年生のリレーが始まるため、そそくさと退場をする放送が流れた。走り終わった後のボロボロのメンバーのため、列もバラバラで退場門へ向かう。途中で倫太郎くんが私の隣に来て、フラフラな私に腰に手を回して支えてくれた。

「なまえ、頑張ったね。お疲れ様」
「倫太郎くんも、スマートに速くてさすがやったね」

お互いに労う言葉をかけていると、侑くんに後ろから「そこ、イチャつくな!」と怒られた。

クラスの応援席に戻ると、クラスメイトに慰労の言葉をもらった。

「なまえむっちゃ速かったな!ほんま私の推し最強やねんけど!」
「なまえお疲れ様!ほんま速くてびびった!」
「こんな顔面もよくて足も速いって、ギャップで殺されそうや」

ありがと、と言いながら水分を摂りしばらく日陰で休んでいた。部活対抗リレーは先輩達が出るため、私は応援に回った。部活対抗リレーは各部活のユニフォームを着て走るらしく、チア部は可愛い枠らしいから速くなくてもええと先輩が言っていた。

部活対抗リレーも大盛り上がりで、陸上部が優勝していた。

最後のクラス対抗リレーは選抜とは違い、クラス全員が走るリレーだ。選抜リレーよりはガチ感は無いとはいえ、各クラス走順は作戦を練ってきている。私は最後の方に走る事になっていて、走るのが苦手な子にバトンを渡すため、頑張って距離を空けたいと思ってる。

僅差で2位の状態で私の走る番となり、バトンを受け取ると1位の子をすぐに抜かすと差を開かせるために全力で走る。まぁまぁ距離を空けて次の子にバトンを渡せた。その後バトンミスが一度あり、結果は3位でゴールをした。

全ての種目が終わり閉会式の頃にはクタクタで、天気が良かったこともありすでに体力はヘトヘトになっていた。教室で最後にホームルームをして帰るだけとなったが、体が思うように動かなかった。

みんなが心配してくれるけど、ただの疲れやから平気と言って手を振る。少しだけ休めば大丈夫だろうと思い、机に顔を伏せているといつの間にか寝てしまっていた。

次に意識を戻したのは、肩をトントンと叩かれているのに気が付いた時だった。
 
「え、侑くん?」
「なまえちゃん、よう寝とったな」
「…いま何時?」
「5時」
「私30分くらい寝てたんや…って、侑くんはどうしたん?」
「俺はなまえちゃん待っとった」
「へ?私?」

まさかの返答に素っ頓狂な声を出してしまった。侑くんと2人きりで話す事があったかな、と考えていると侑くんはふはっと笑い出した。

「そんな深く考え込まんでや。ちょっとだけ聞いて欲しい事あって。あ、ちゃんと角名には許可取ってる」
「あ、そうなんや。話って何?どうしたん?」

2人きりの教室にお互いの声が響く。侑くんはいつものふざけた様子ではなく、真面目な表情をしていた。

「俺な、バレーがむっちゃ好きで、バレー以外は正直そない興味あらへんくて」
「うん。そんな感じやったね」
「やろ?恋愛とかもバレーに影響あるんやったら邪魔やって思っとったし、実際に告白とかされてもほんまに今は彼女とか必要無いとか思ってて」

小さく相槌を打ちながら侑くんの話を静かに聞く。

「でもな、俺なまえちゃん初めて見た時、ビックリするくらいドキドキしてん。ほんまに。でもやっぱりバレーが1番って思っとったし、バレーするためにこの高校に来たんやから、恋愛なんてうつつ抜かしとったら腕が落ちるんちゃうかって思っとったから、俺からするとなまえちゃんはアイドル的存在なんやろなって
気持ちにストップかけてて」

何が言いたいのかを何となく察してきた私は、自然と顔を俯かせてしまった。

「でも最近、というか角名と付き合ったって聞いたあたりから、なまえちゃんの事やたらと見てしまうようになって。たぶん俺ってなまえちゃんの事好きなんやなってようやく自覚したんやけど、まぁその時にはもう角名の彼女やしどうにも出来んくて」

侑くんは黙り込む私を気にもせず、スラスラと言葉を並べていく。

「このまま忘れるの待てばええって思ってたんやけど、思えば思うほど気になって。それが嫌やったからもう伝えて吹っ切れようって自分勝手に考えた」
「…うん」

侑くんはスッキリとした表情で私を見つめていた。

「俺、なまえちゃんの事好きやったで」
「…うん、ありがとう」
「…ふはっ、断らんの?」
「えっ!いや!ちゃうねん!その…!」
「分かっとるって。気遣ってくれてるんやろ?大丈夫やから。答えは求めてへんし、そもそも二人の仲を壊すつもり無かったから、これでもう終わり。明日からはまた俺のアイドルでいてや」
「アイドルかはわからへんけど、うん。わかった」

いつもの侑くんに戻ってような気がして安心した。いつもの侑くんを知ってるほど仲は深くないけど。

「角名にも俺の気持ち伝えてて、なまえちゃんに伝えさせてくれって話してる。角名も俺の気持ち汲んでくれてしぶしぶ頷いてくれてん」
「そうやったんや」
「ま、でも角名が何かしてなまえちゃんが泣かされる事になったら、俺絶対奪いにいくって宣言はしたから。それは覚えといてな」
「わ、わかった」
「ん、話聞いてくれてありがとな。角名、校門で待っとるから早めに行ったってな。それじゃ」

そう言って侑くんは教室を出て行った。侑くんを見届けた後、私も荷物を持ち倫太郎くんが待つ校門へ早歩きで向かった。どれくらい待たせていたのか、申し訳ない気持ちが募る。

外はすでに薄暗くなっていた。そして、校門にはスマホをいじる倫太郎くんがいた。

「倫太郎くん!待たせてほんまごめん…!」
「なまえ、お疲れ様。大丈夫だよ」

倫太郎くんは私の顔を見ると安心したように笑ってくれた。そして自然の流れで手を繋ぎ、行こっかと言い足を動かし出す。

「侑の話、聞いた?」
「あ、うん。聞いた」
「そ、っか。何となく俺は気付いてたけど、気付かないふりしちゃってて。侑、かっこいいしモテるし、俺なんかより魅力いっぱいあるから」

珍しく倫太郎くんは自信無さそうだった。

「侑がなまえの事好きって認めなきゃいいのにって思ってた。けどさっき侑に、なまえは俺なんかに靡かないくらい角名の事好きだからって言われて。あー、なんで俺は彼女の事信じてあげれなかったんだろって落ち込んだ」

倫太郎くんが信号待ちで立ち止まり、私の方向に体を向ける。お互いに目を合わせると、突然フワッと抱きしめられる。

「俺は、なまえを離すつもりないし裏切る事も絶対にしない。もし不安な事があったら絶対に言って」
「ふふふ、ありがと。侑くんの言う通り。私、誰に言い寄られても流されたりせえへんよ?倫太郎くんが私を離さへん限りね。それくらい大好きなんやけど、まだ伝わってへんかった?」

少し意地悪に聞いてみると、倫太郎くんは笑っていた。信号が変わりお互いに体を離すと、横断歩道を進んでいく。

「俺はまだ受け止めれる器あるけど」
「えー、そんなん私もなんやけど」
「じゃあ今度もっと濃厚なエッチする?」
「ねぇ!そうゆう事外で言わんといてよ!」
「っほほ、家でならいいの?」
「そうゆう事ちゃう!」

倫太郎くんもいつもの様子に戻った気がする。家に帰るまで、体育祭の事や部活の話をしながら家まで送ってくれた。遅くなってしまったし、ご飯食べてかへん?と誘ってみたが、さすがに突然すぎるからと遠慮して倫太郎くんは寮へ帰っていった。

その日はご飯を食べてすぐに風呂に入り、夜10時には夢の中に落ちていた。







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