30
夜は肌寒くなってくるような時期に差し掛かってきた。外が暗くなるのも早くてもうすっかり秋が来た。
そして文化祭まで残すところあと2週間となった。本格的に準備が進んでいって私らのクラスもたこ焼き屋の準備と各々の準備が進んでいた。看板作りをしていた時に誤って顔にペンキが付いてしまい水道に行ってくると絵麻に伝え、ミラーとハンカチを持って近くの水道へ行くと水道にはすでに女の子2人がいた。
「あ、みょうじさんや〜」
「近くで見てもむっちゃかわええしむっちゃええ匂いやな」
「すなりんがデレデレするのもわかるわ〜」
「あ、ありがとう」
誰や知らん女の子に絡まれ少し困惑していた。すなりんと呼ぶあたり4組の子なんかな、と考えてた。
「あ、そや。すなりんの猫姿、むっちゃ可愛かったで〜。当日楽しみにしとってな!」
「最初嫌がってたのになんや最近ノリノリになってん」
「な!すなりんうちのクラスの客寄せやから張り切ってもらわんとな」
「すなりんは一日中店番してもらわな困るかもしれへんわ」
「あはは。そうなんやね」
すなりんすなりんと、私にわざと倫太郎くんの話題を振ってきてるあたり癪に障る。早よペンキ落として教室帰ろ。私が必死に落としてる今も、すなりんは〜、すなりんが〜、と一方的に話してくる。
「すなりんみんなに優しいからクラスでも人気やしな」
「せやねん!すなりん女の子に優しいしほんまかっこええよな!」
こうゆう時に限ってペンキが全然落ちへんくて苛立ってしまう。この子らのすなりんトークも止まらんし。思わずため息を吐きそうになったその時、話題の彼が登場した。
「あれ、なまえじゃん。3組も準備中?…って、顔どうしたの」
「準備で色塗ってたら顔に付いちゃって。全然落ちへんくて困ってた」
「そうなの?見せて。俺が拭いてあげる」
「ほんま?…って近い!2人見てるから!」
「よく見ないと落ちないよ」
「近すぎやって!ちょ、倫太郎くん!」
クラスメイトの女の子2人が目の前にいるのに構わず私の顔に急接近してくる倫太郎くん。そんな甘い顔した倫太郎くんをもちろん見た事がない2人は慌てふためき出す。
「す、すなりん〜、今うちらみょうじさんにすなりんの事教えてあげてたんよ!」
「そうそう!すなりんかっこええよなって!」
「あ、そうなんだ。そう言えば佐竹が阿久津さんの事探してたよ」
「ほ、ほんま?じゃあ先戻っとくわ…!」
行こ…!と言ってそそくさとこの場を去っていく2人。倫太郎くんは私を見つめるとニコリと笑って、2人きりになったね、と言った。
「あの2人になんか言われた?」
「え?な、なんで?会話聞こえてた?」
「最後の二言くらいだけね。俺の事言ってたでしょ?」
確かに嫌な思いはしたけど、彼女達はほんまに善意のつもりやったかもしれないと考えると今ここで彼女達の事を悪く言うのは自分勝手で嫌な奴に見えてしまうのではと思ってしまう。つい口を閉ざして踏み止まっていると、倫太郎くんはそれを察した。
「俺言ったよね。何かあったら絶対言ってって」
「…あの子達が私の前ですなりん、すなりんって倫太郎くんの教室内の話ばっかりしとったから嫌やった。私の方がたくさん倫太郎くんの事知ってるのに、私の知らない倫太郎くんの話を一方的にずっと言ってくるから心の中でムキになってた」
小声で素直に気持ちをぶち撒けると、倫太郎くんは少し微笑んで頭をポンと撫でてくれた。
「なまえ以上に俺の事知ってる人いると思う?バレー部ですら知らない事をなまえは知ってるよ。それに俺女の子に優しくというより、なまえ以外の全員に同じ対応だから気にしないで」
もちろん倫太郎くんの事は私が1番知ってるし、倫太郎くんがみんなに平等なのも分かってる。倫太郎くんが私に特別な対応なのも分かってる。けどたまにこうやって他の人から聞く倫太郎くんは逆に私の知らない倫太郎くんだからと思い少しだけ胸がチクリとしてしまう。
「私、ほんま面倒くさい彼女やね」
「えー、可愛いけどね」
「自分が嫌になる」
「じゃあその分俺が愛すよ」
倫太郎くんは私が受け取った事のない大きさの愛をいつもくれる。もう愛で満たされてると思っていても、まだまだ愛を捧げてくれる。さっきの2人はこんな甘い顔の倫太郎くんを知らない。そう思うとそれだけで満足した気持ちになって、さっきの事がどうでも良くなった。
「文化祭、一緒に回らへん?」
「勝手にその気でいた。なまえ達は午前午後で交代?」
「そう、私午前に店番やねんけど、倫太郎くんは?」
「俺も午前。もしかしたら昼過ぎまでやるかもだから終わったら俺のクラスで待っててよ」
「わかった。ギャルのまま行くわ」
「あ、そういえば着る服はプロデュースしてもらったの?」
「当日までのお楽しみらしくてまだ見てへんよ」
「えー、俺露出多かったら泣くから」
「泣かへんくせに」
倫太郎くんと話しているとそろそろ準備に戻らないといけない時間だった。顔のペンキは薄くなったからもう後は家でクレンジングで落とす事にした。
「そういえば倫太郎くん猫やるのノリノリらしいやん」
「え、だってなまえが楽しみにしてたから」
今日も私の彼氏は愛しさで満開だった。
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