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あっという間に兵庫へ帰る日になった、ご家族の皆さんに挨拶をして家を出る。お母さんからは「またいつでも来てね」と温かい言葉をもらえて嬉しかった。

「倫太郎のご家族はほんまに温かいね」
「ほんと?母さんも父さんもなまえの事気に入ってたから」
「また連れてってね。今度は愛知の観光地案内してや」
「了解。中学までだからあんまり分かんないけど」

また実家に連れてってくれる約束を取り付けつつ、倫太郎と兵庫へと戻る。最寄り駅まで行くとお母さんが車で迎えに来てくれていた。

「ほんまご実家の皆さんにお世話になったね。ありがとう。なまえは失礼あらへんかった?」
「むしろ両親ともに喜んでいました。また来て欲しいって。あ、それと手土産も嬉しかったみたいで、ありがとうございますと言ってました」

お母さんと倫太郎が話すのを静かに見ていた。倫太郎もお母さんとはだいぶ話しやすくなったようで、最初はドモってた会話もスラスラとできるようになっていた。

「なまえも楽しかった?」
「うん、ほんま温かくて素敵なご家族やったよ。優しくしてもらったしむっちゃ楽しかった」
「そっか、よかったやん」

お母さんは嬉しそうにそう言って微笑んでいた。20分ほどで倫太郎の寮に着く。丁寧にお礼を言って車を後にした。

「倫太郎くんが素敵な子なのは、きっとご家族のお陰やね。あんなにええ子ほんまになかなかおらんで」
「うん、私もそれ愛知にいた時思ったんよ。倫太郎はこのご家庭で育ったからこんなにええ人なんやろなーって。ほんまええ彼氏と付き合えて幸せや」

倫太郎のいないところで彼を褒めちぎり、何だかこそばゆい気持ちになる。

「春高、あんた行くんやろ?」
「うん、チア部の応援もあるし行くで」
「もうすぐやん。倫太郎くんに頑張れって言うといて」

お母さんも大概彼を気に入ってる。自分の大好きな人が自分の家族と仲良くなるのはこんなにも嬉しいのかと初めて実感した。

そしてその数日後、春高のため東京へと向かった。稲荷崎はシード枠のため2回戦からの戦いとなる。倫太郎達のバレー部はすでに東京に着いているようだった。明日からの試合のため、彼らは相手校のビデオを見て戦略を練ったりと、すでに戦いに挑んでいた。

「角名くん、明日出るんかな」
「どうなんやろ。3年生も残っとるらしいから分からへんね」

応援組は同じ旅館のため、吹奏楽部の絵麻も同じ旅館だった。治くんも角名くんもユニフォームは貰ったようだったが、スタメンではないらしく出場するかは分からない。

明日も朝早く起きて気合いを入れて準備するため、今日は早く寝るようにした。寝る前に倫太郎に「明日倫太郎の事応援するね」と連絡すると、「コートに出たら俺だけ見てて」と返信が来た。

次の日、準備を終え会場に向かう。稲荷崎の初戦は10時半からのため、あと15分でトイレ等を済ませておけと先生から言われた。チア部の友達とお手洗いに向かい、用を済ませ早歩きで戻ろうとした時、曲がり角で大きな男の人とぶつかる。

「ぅわっ、と」
「おっと、大丈夫?」

体格のいい男の人とぶつかった所為で、私の体は後ろへ飛ばされるが、その人が咄嗟に私の腕を掴み支えてくれた。

顔を上げると、赤いジャージを着た変な髪をした人と視線がぶつかる。大人びた見た目的に先輩だろう。

「す、すみません!選手の方ですよね?お怪我はないですか?」

今から試合の学校か分からないけど、どこか打ってたりしていると大変だと思いそう聞くと、目の前の彼は目を丸くした後大きな口を開けて笑った。

「あっはは!君の方が怪我しそうな飛んでき方してたけどね」
「あ、いや、そうなんですけど。私は選手やないんで」
「関西の学校のチアさん?」
「はい、稲荷崎の」
「うわー、強豪だ」

なんだか目の前の人は普通に話し始めた。彼の少し後ろには少し髪の長い猫背気味の子が気だるそうに立っている。

「お怪我ないなら良かったです。私の不注意ですみませんでした」
「いえいえ。可愛い子とぶつかってパワー貰ったわ。さんきゅ」

初対面で何言ってんだと内心で悪態を吐き、それではと言いチア部の元へ急いで戻った。

「今の人絶対なまえの事口説こうとしとったな」
「視線が熱かったもんな」
「結構かっこよかったやん、今の人」
「な、でもアレ絶対チャラいで」
「わかるわー、ええ声しとったしな。俺で落ちない子初めてとか思ってそう」
「なにそれきっしょ。うちには宮兄弟がおんねんなめんなや」
「そもそもなまえには角名くんおるしな」

戻っている時、チア部の友達がさっきの人の話題で勝手にアレコレと盛り上がってる。

「まぁ、確かにチャラそうではあった」
「やっぱ?なまえもそう思うやんな?」
「初対面であんな感じなのもう手慣れてる感しかないやん。何言うてんのこの人って思っとったよ」
「でもそーゆうチャラそうに見える人ほど、案外好きになると一途になったりするもんなんやで」
「彼氏おらん奴が何語っとんねん」
「うっさいわ、韓ドラむっちゃ見とるから一緒やん」
「全然ちゃうやろ」

名前の知らない彼をネタにして笑いながらチア部の元に着いた。時間になり各々の位置に着く。少しすると選手が入場する。侑くんと治くんの団扇を持った女の子がIHに比べて増えているようだった。そして以前まではチラホラと見掛けていたが、私と付き合ってから倫太郎の団扇を持つ子はいなくなった。

倫太郎がキョロキョロとこちらの方を見ていた。少しすると目がパチリと合って、満足そうに笑ってくれた。私の事探してたんかなと自意識過剰な事を思い、思わずニヤけてしまう。

試合が始まると吹奏楽部の音に乗せて応援をしたり、稲荷崎特有の相手のペースを乱す拍手をしたりと、うちの学校なりの応援をした。正直稲荷崎の応援は好きではない。けど、これも伝統の一つでやらないといけないものだ。

第一ゲームは点差を広げて勝ち取った。第二ゲームの半ば、倫太郎がコートに立つ。倫太郎のプレイはやっぱり目の惹くものがあると思う。惚れた弱みと言われれば否定出来ないのだが、やっぱりスカウトされただけある技術、才能があるんだなと素人目で感じていた。

第二ゲームも点差をつけて初戦は難なく白星を上げた。会場では「やっぱり稲荷崎は強い」「稲荷崎の一年生は期待の星ばかり」と声が上がっていて、勝手に誇らしくなっていた。

試合が終わったため応援席を撤収し、お手洗いに行く人や飲み物を買いに行く人等各々の時間を過ごす。20分後に正面の入り口に集合らしく、私も絵麻とお手洗いに向かった。

「治も角名くんも少しやったけど出れてよかったな」
「ね、治くんも活躍しとったやん。また黄色い声援増えていくんちゃう?」
「まぁ、うちの男かっこええから」
「彼女つよ、おもろ」

絵麻と笑いながら歩いていると、前から見覚えのあるジャージが歩いてきた。

「お、さっきの子じゃん。稲荷崎さん初戦オメデト」
「あ、どうも。まぁうちが優勝するんで」
「ははっ、強気な子もいいねー」

絵麻は誰?と言いたそうな目で見ている。目の前の赤ジャージのトサカ先輩の隣にいる身長が低めの短髪の人も同じ目をしてる。いや、プラスで引いた目をしていた。

「お前春高の会場でナンパしてんの…引くわ…」
「ちげぇって夜っ久ん!ヤメテ!変な言い方しないで!」
「可愛いからってマジで恥ずかしい…」
「だから!」

やっくんとやらは常識人っぽくて少し安心した。もっと言ってやってくれと思いながら、この場から離れたくて会話を終わらせようとした。

「うちと戦う時があればよろしくお願いします。それでは」

そう言って頭を下げ横にずれて行こうとするも、トサカ先輩は声を掛けてきた。

「あ、ちょっと。名前、教えてよ」
「…みょうじです」
「ぶははっ、そうくる?随分警戒されてんね」
「そりゃ知らない人なので」
「俺は黒尾鉄朗。東京の音駒高校2年」
「稲荷崎高校1年のみょうじなまえです。また会場内でお見かけすることがあればよろしくお願いします」

それでは、と再度言ってその場を去る。絵麻から何か言いたそうな雰囲気を感じつつ、とりあえずその場から離れた。

「んで、誰なん?あのトサカ」
「辛辣なあだ名やん」
「話逸らさへんでくれん?」
「いや、ほんま知らん人。試合前にぶつかっただけやし。これからも知ることない人やから」
「でも確実に向こうはなまえの事狙ってる感じやったやん。角名くんに言わへんの?」
「ほんまに今後会う事ないやろうし、言って変に気にさせんのも嫌やから」

絵麻は何だか納得してなさそうな顔をしていた。

「まぁ、もしまた次会って何か言われたら彼氏おるって言うし」
「なまえは自分のスペック理解してへんから困るわ〜。男はそんなんでめげへん奴もおるんやからね」
「連絡先とかは絶対交換せえへんし大丈夫やって」

絵麻も結構心配性なところがある。近藤くんの事があってからは尚更心配性に拍車がかかってる。

初日はそのまま旅館へ向かう。ご飯や風呂を済ませ、後は寝るだけとなった時、スマホが震えたため確認すると倫太郎からの着信画面が表示されていた。

急いで部屋を出て人気の無い階段に向かう。

「もしもし?」
「もしもし、ごめんいきなり。電話大丈夫?」
「うん、今部屋でたから平気。今日はお疲れ様」
「ありがとう。なまえのチアの衣装見たら頑張れた」
「ふふふ、倫太郎は今日もかっこよかったわ」
「ほんと?あんまり出てないけど、そう言って貰って良かった」

倫太郎は少し嬉しそうにしてくれた。声を聞くと凄く会いたくなる。倫太郎の顔が見たくなる。

「なまえの声聞くとめっちゃ会いたくなるね」
「…今全く同じこと思っとった」
「ほんと?明日試合終わったら会お」
「ええの?会えるんやったら会いたい」
「俺が会いたいから」

倫太郎は愛情表現がストレートだ。そうゆうところがすごく好きだし、自分も素直になれる気がしてる。

「なまえが会場にいるだけでマジで頑張れるわ。でも他校の男には気を付けてよ」
「うん、大丈夫。倫太郎以外ほんまに見てへんから」
「…あー、キスしたい」

倫太郎はいつにも増して甘えたな様子だった。こういう日がたまにある。そして大体そういう日は疲れてる日が多い。移動や慣れないホテルからの大会で疲れてきてるのだろうか。

「春高終わったらデートせえへん?」
「する」
「ふふふ、むっちゃ即答」
「そりゃね。あー、頑張れる」
「明日も頑張ってね」
「ありがとう。じゃあおやすみ」

倫太郎との電話を終えて部屋に戻り、布団に潜ると睡魔に襲われた。明日に響かないよう素直に眠る事にした。








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